スーパー複合の前半、スーパー大回転男子視覚障害に出場したマレク・クバツカ(左)はコースアウトし、ガイドと手をつないで下りてきた=竹谷俊之撮影
(平昌パラリンピック)
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アルペンスキー視覚障害に、全く目の見えないスロバキア人の男子選手が挑んでいる。29歳、マレク・クバツカだ。視力の弱い選手が多いなか、高速系種目で全盲選手はただ1人。先導するガイドの声を頼りに、暗闇の中を高速で滑走する。
11日のスーパー大回転、明らかに滑りが遅い選手がいた。アルペンスキーの会場に響く音楽が止まる。視覚障害のスキーヤーが出番を迎える合図だ。先導のガイドの声を頼りに、視力の弱い選手たちが急斜面を滑り降りる。多くの選手は、ぼんやりとガイドの背中が見えるかどうかの状態だという。
通常、ガイドは無線で選手に指示を送る。だが、クバツカのガイドだけは、大きな黒いスピーカーを背負う。クバツカは声の聞こえる方向だけを頼りに滑る。「リー リー リー」と聞こえれば左へ。「アレ アレ アレ」なら右ターン。6種類ほどのサインがある。静かな雪原に、ガイドの声が絶え間なく響く。
他の選手がガイドと5~10メートルほど離れて滑る中、2人の距離はぐっと近い。顔をやや上に向け、手探りするように両手を前に出しながら滑る。強風で音が遮られ、止まりかける。ガイドが寄り添うように近づき、また加速する。最高速度は時速40キロを超える。
2040メートルのコースを約2分半で滑りきった。ゴール直後、倒れ込むように止まる。ガイドに手を引かれ、拍手のなか引き揚げた。完走した12選手で、タイムは最も遅い。だがパラリンピックでは、障害の重さに応じて係数をかける。クバツカは「61・19%」。計算上は1分31秒97の記録となり、7位に食い込んだ。
9歳の頃、バーベキューの最中にスプレー缶が目の前で破裂し、視力を失った。それでも、好きだったスキーをやめなかった。ソチでは4レースで3度の途中棄権。今大会も滑降を除く4種目に出場予定だ。「夢はメダル」。13日はスーパー複合に出場し、1本目のスーパー大回転で転倒して途中棄権に終わった。(高野遼)