津市工事をめぐる構図
津市発注の道路工事で2012年3月、作業員男性が負傷した労災事故をめぐり、男性との裁判で敗訴して賠償金を支払った市が、その後「事故の過失は(男性を雇用していた)建設会社にある」と主張し、この業者への工事代金約9300万円を支払わないと通知していたことがわかった。業者側は13日、津簡裁に民事調停を申し立てた。社長は「一方的な通知で困惑している」と話している。
市によると、この業者が受注し、今年3月末までに完了する別の市道工事3件(契約額約1億1800万円)のうち、前金を除く代金約7200万円を支払わず、相殺で「肩代わり」させる方針という。さらに、残りの約2千万円分についても、今後の受注工事の代金から差し引く考えだ。
裁判資料によると、労災事故は、道路工事の掘削作業中に石積みの壁が崩落し、作業員男性(52)が左足を切断する大けがをしたというもの。男性は、安全を確保する義務があったとして市を相手取り、治療費や慰謝料などの支払いを求めて津地裁に提訴した。
市は「安全確保の義務は一義的には業者にある」などと主張したが、地裁判決は、事故前日に現場を確認した市職員が崩落の危険性を認識していたのに、具体的な安全対策や工事の一時中止を指示しなかったなどとして、市の過失を認定。支払いを命じた。
市は控訴したが、二審・名古屋高裁も市の責任を認めた。市は上告せず、今年1月に利子を含めた約9300万円を男性に支払った。
だが、市は「受注者が裁判で被告とされなかったことから、本市にのみ支払いが命じられた」などと主張。1月末に業者側に相殺を求める通知書を送ったという。市は取材に「業者に対しては、市に過失があるとは考えていないので、全額を求償する」と説明している。(高木文子、国方萌乃)
司法判断ないがしろに
横山信二・広島大名誉教授(行政法)の話 市の方針は、国家賠償法に基づいて市の過失を認めた司法判決をないがしろにする行為だ。市側に責任がないと主張するなら、最高裁に上告して司法の判断を仰ぐべきだった。特定の業者が賠償金を全額負担すれば、本来は市が支払うべきお金を肩代わりすることにつながる。今後の入札の公平性にも疑念を生じかねない。