福島県飯舘村で保護された猫を抱く井上めぐみさん。ここが新たな飼い主を待つ猫たちのシェルターだ=名古屋市中村区
7年前の東日本大震災発生後、原発事故で飼い主が避難して取り残されたペットの世話や保護をし続けてきた女性がいる。名古屋市東区の井上めぐみさん(44)。福島県に通うこと70回以上。今は新しい飼い主探しに奔走している。
特集:どうぶつ新聞
名古屋市中村区のマンションの一室に、飼い主と離ればなれになった猫たちのシェルターがある。名付けて「シャチホコシェルター★ナゴヤ」。現在は21匹が暮らし、そのうち8匹は福島県飯舘村で保護された猫たちだ。
井上さんは毎月、福島県に行き、保護した仲間から数匹を引き取り、名古屋で飼い主を募っている。これまで犬や猫計約30匹を新たな飼い主に引き渡した。
こうした活動は、東京電力福島第一原発事故によって飼い主が避難し、取り残された動物の世話から始まった。きっかけは震災2カ月後の11年5月、そうした動物たちの現状を伝えるテレビ番組だった。
自宅で猫を飼っていたが、「同じ日本なのに信じられなかった」と井上さん。放送からまもなく、約400キロのペットフードを車に積み、福島に走った。
最初の拠点は福島県南相馬市。おなかをすかせた犬や猫は食べ物に夢中でかぶりついた。3日間滞在し、帰るときは自分のおにぎりを車から投げた。「これで命をつないで」
仕事の傍ら、毎月1回あった3連休の時に福島へ向かった。世話をする人がいなくなったためか、白骨化した動物を数え切れないほど目にしたという。
現場で同じ志の仲間と出会い、支援の輪が広がった。当初は食べ物を与えるだけの活動だったが、飼い主が戻らないのに放置できないと考え、福島県内に仲間が設けたシェルターに犬や猫を保護。それから元々の飼い主を探し、引き取れない場合は新しい飼い主を募ることにした。13年には拠点を飯舘村に移した。
17年3月末に帰還困難区域以外の避難指示がほぼ解除され、活動に一区切りをつけるまで、福島県に行った回数は72回に上った。
その後も月1回は福島県に通う。知り合った地元の人と地域の放射線量を細かく測る。放射線と隣り合わせの生活に役立ててほしいからだ。また、福島で撮った写真の展示や講演などもしてきた。
井上さんは「震災まで社会問題に関心を持ったことがなかったけど、原発事故で人生が変わった。すべての動物たちに飼い主を見つけてあげることが私の最終目標」と話す。
井上さんが保護する猫の譲渡会が4月15日午前11時~午後3時にある。名古屋市天白区平針2の1111、A2ビル1階で。問い合わせは井上さん(080・3288・0421)。(保坂知晃)