試合前のあいさつに駆け出す由利工の選手たち=24日午前8時58分、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場、池田良撮影
第90回記念選抜高校野球大会に初出場した由利工(秋田)は24日、日大三(東京)と対戦した。甲子園常連校相手に奮闘する選手らをタイから応援したOBがいる。現地で幼稚園を経営しながら由利工を支援する佐藤正喜(まさき)さん(69)だ。
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佐藤さんは1964年入学の由利工3期生。野球部員だったが、「レギュラーになれそうになかったから」と2年の秋の大会後に陸上部に転部。「社会福祉をしたい」という夢を持ち、明治大卒業後、ベトナム戦争で傷つくアジアを中心にボランティアを経験した。82年からタイに移住し、現地の政治経済や文化を学ぶ勉強会も主宰する。
移住してから30年となった2012年、生まれ育った故郷の秋田県由利本荘市への恩返しを決意した。浮かんだのは地元の由利工野球部のことだった。
「甲子園に出て全国に由利工の名が知れたら地域の誇りにつながる」と考え、思い切って野球部に100万円の寄付を決めた。異国で様々な失敗や挫折を経験しながらためたお金だ。ボランティア経験から、「同情」だけでは立ち行かない現実もわかっていた。
佐藤さんは毎年寄付を続けた。「出場は難しくても、甲子園への夢を持ち続けて欲しかった」。寄付を活用し、チームは13年にユニホームを新調。14年からは毎年、春に沖縄遠征をするようになった。
21世紀枠で初出場を決めた今年、積雪で2月末まで屋外練習ができなかったが、3月に遠征して実戦感覚を取り戻した。畑山陸翔(りくと)主将(3年)は「良いスタートダッシュになった」と話す。遠征費は部員1人9万円以上かかるが、渡辺義久監督(39)は「寄付があったから、踏ん切りがついた」と感謝する。
この日の試合をバンコク郊外からネット中継で見た佐藤さん。「大舞台でも、選手たちはのびのびとよく戦っていた。大きな収穫になったのではないか。秋田大会を勝ち抜いて、また夏も甲子園に出場してほしい」(神野勇人、金井信義)