バスは山の間をぐんぐん進んでいく=水野義則撮影
時紀行
高速道路を使わず、主に国道168号を通って紀伊半島を延々と縦断する路線バスが、バスマニアから注目を集めている。その「八木新宮特急」に乗ってみた。
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【動画】(時紀行:時の余話)隘路の行き違いにベテランの気配り
奈良を歩こう
奈良県橿原市の近鉄大和八木駅から和歌山県新宮市のJR新宮駅まで、紀伊半島を縦断する166・9キロの道のりを、奈良交通の路線バス「八木新宮線」が走る。「特急」だが、終点まで6時間30分、5250円。時間、距離、166ある停留所数のどれもが一般道の路線バスでは日本一だ。
熊野古道に向かうハイカーらと乗り込む。奈良県五條市の賀名生(あのう)梅林あたりから車窓に山が迫る。乗用車がやっとすれ違える細い国道を、ディーゼルエンジンをうならせて進む。対向のダンプカーが道端にぴたりと寄って待避する。
熊野川沿いを進む。山肌が大きく崩落した跡があり、「長殿(ながとの)発電所前」にさしかかったが、発電所は見えない。「7年前、紀伊半島を襲った大水害で、雨は崖を崩し、川をせき止めました。発電所は、逆流した土砂の勢いで上流に流されてしまいました」。18年間、このバスのハンドルを握る間野泰博さん(52)のアナウンスに、にぎやかだった乗客はしばらく言葉を失った。
水害で11カ所の停留所が被災…