データ分析作業をする野津風太君(左)と高見遥香さん=今年2月、大津市の膳所高校、石川友恵撮影
(24日、選抜高校野球 日本航空石川10―0膳所)
「見たことない」膳所の陣形、強振で突破 日本航空石川
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一回裏2死二塁のピンチ。膳所(ぜぜ)(滋賀)の遊撃手、渡辺大夢(ひろむ)選手(3年)が本来ならセンターに抜けようかという4番打者の打球を正面でなんなくさばいた。
「なんやこれ」。日本航空石川の小坂敏輝主将(3年)は守備陣形を見て驚いた。遊撃手が二塁後方にいて、本来なら遊撃手がいる位置に三塁手が立っている。「一歩間違えれば単打が長打になってしまうリスクもあるのに。それをこの大舞台で……」
三回裏も三遊間に飛んだ安打性の打球を三塁手の平井崇博選手(3年)がアウトに。「三塁線のコースを空ける守備位置をとったのは初めてだったが、データ通りの打球だったのでとれた」。今大会最多の3万3千人の観衆がざわめいた。データに基づいた大胆な守備位置。膳所の野球がはまった。
「本当に正面に行くことが多かった。すごくはまっているな、ともやもやしていた」。日本航空石川の中村隆監督(33)は序盤の展開に舌を巻いた。
膳所の上品充朗(うえしなみつお)監督(48)によると、事前に日本航空石川の各打者ごとの守備位置の「基本形」を策定。さらに試合中にも、打者のバットの振りの感じなどで打席ごとに修正もしていたという。「違うところに打たれたら仕方ないという割り切りがあった」と分析力に自信をみせた。
膳所は昨年4月、野球をしない分析専門の部員を募集、データ野球を本格化させた。「我々は個々の能力が高くない。勝つためには工夫が必要」と上品監督。書道部にも所属する「カープ女子」の高見遥香さん(2年)と、ルールも知らなかったほど野球には関心がないが、分析に使うプログラミングに興味があったという野津(のつ)風太君(同)が入部した。
2人はアウト数や走者の有無など、場面に応じた打球傾向を打者ごとに調査。高見さんが公式戦などを観戦してグラウンドを198に分割した表に打球の落下地点をまとめ、野津君がパソコンに入力する。
昨年12月からは月1~2回、滋賀大データサイエンス学部の保科架風(ほしないぶき)助教(32)のもとを訪れ、データ分析の専門ソフトの使い方を学んできた。
打球傾向を分析して守備位置を大胆にずらし、安打はアウトに、長打性の当たりは単打にとどめ、失点を極力抑える。遊撃手の渡辺選手は「データを活用してからは、打球がとりやすいところに来るのでミスも減った」。打たせて取るスタイルの長野友樹投手(3年)は「前は『もうちょっと取ってほしいな』と思うこともあったが、今は確実にアウトにしてくれる」と話す。
こうした取り組みも評価されて、21世紀枠でつかんだ選抜の舞台。日本航空石川が対戦相手に決まると、昨秋の石川県大会、北信越大会、明治神宮大会の映像などを調べた。さらに試合数日前には各打者の打球傾向や個人成績を見られるスマートフォンの専用アプリも完成。大胆な守備位置でピンチを防いだのは、データ分析の結実だ。
序盤は互角に渡り合い、三塁側アルプス席をチームカラーの白に染め上げた声援に応えた。だが、中盤以降は相手の自慢の強打にじりじりと引き離された。最終的には10点の大差がついたが、膳所は59年ぶりの選抜に「爪痕」を残した。
膳所の石川唯斗(ゆいと)主将(3年)は「分析が強豪校にも通用することが分かった。でもデータは正しくても打球をさばききれないことがあった。技術を向上させてもう一度甲子園で戦う姿を見てもらう」と誓った。上品監督は「ある程度はアウトを取れるという実証ができた。さらに精度を高めたい」と話した。(石川友恵、藤野隆晃、松本真弥)