決勝のグラウンドを見つめる大阪桐蔭の主将中川卓也君の兄の優さん(左)=2018年4月4日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場
(4日、選抜高校野球 大阪桐蔭5―2智弁和歌山)
塁踏み外した夜、前主将から継いだ手袋 大阪桐蔭・中川
三塁側アルプス席には、大阪桐蔭の主将中川卓也君(3年)の兄、優(まさし)さん(20)が応援に駆けつけた。大阪体育大学でも投手として野球を続ける優さんは、チームメートに智弁和歌山の林晃汰君の兄直城(なおき)さん(20)がおり、互いに自宅を行き来するほどの仲良しだ。この日は、両校が決勝で顔を合わせ、複雑な気持ちで応援した。
優さんの背中を追って、4歳で軟式野球を始めた卓也君。練習をじっと見ているのに監督が気付き、「君もやるか?」と誘われてチームに入った。初めての練習で、コーチとキャッチボールをした弟は、1球目を取り損ねて顔にぶつけ、鼻血を出した。だが、すぐに野球にのめり込む。兄弟で団地の広場で投球練習や壁打ちに熱中し、父の帰りを待ってバッティングセンターに通う日々を過ごした。
高校で、優さんは八戸学院光星(青森)に進み、投手として3度甲子園の土を踏んだ。だが、3年前の夏の青森大会決勝で、最後に投じた球が暴投になり、サヨナラ負けして甲子園を逃した経験がある。昨夏の甲子園で、同じように自らのミスがきっかけで勝利を逃した弟を心配した。今年の正月、自宅に帰った弟に「先輩たちには悪いと思うだろうが、お前にはまだ1年あるぞ」と励ました。
一方、林君の兄、直城さんも、弟の成長を日頃から見守る。自宅から通学する弟と、今も夜に一緒に素振りをする。大会注目のスラッガーに成長した弟に「刺激をもらっている」と一目置く。この日は野手の練習があり、甲子園行きはかなわなかったが、試合前には「悔いの無いように頑張って欲しい」と話していた。
優さんと直城さんは大学でチームメートになり、互いの自宅を行き来するように。優さんは、直城さんの自宅で晃汰選手に「頑張ってるか」と声を掛けることもあった。両校の選抜出場が決まると、兄2人は「決勝で当たるといいなあ」と話していたが、本当にその通りになった。
弟同士が優勝を争う決勝の舞台を、優さんは少し複雑な気持ちで見つめていた。「卓也にも晃汰にも、頑張って欲しい」
好機をものにして、再び優勝旗を取り戻した大阪桐蔭の弟に「昨年から守備もうまくなり、真面目にしっかり練習してきたのだろう。有言実行を果たし、本当にすごい」と拍手を送った。ただ、智弁和歌山ナインに視線を送り、「晃汰は自分らしいバッティングができず、悔しい気持ちだろうと思う。うれしい気持ちと、複雑な気持ちが、半分半分です」と気遣った。
自身の練習後に結果を知った直城さんも「中川の弟が優勝できたのでよかったが、自分の弟は悔しいと思う。普段から『大阪桐蔭を倒さないと優勝できない』と言っていた。夏、もう一度挑戦して欲しい」とねぎらった。(高岡佐也子)