塊肉に包丁を入れる片根淳子さん=新潟市中央区東大通1丁目
新潟のうまいものといえば肉より魚――。そうイメージする人が多いようだ。たしかに村上牛のようなブランドもあるが、肉の消費量はいま一つ。そんな新潟で、肉好きが集まり、「肉を食らう」イベントがあると聞き、行ってみた。
JR新潟駅近くの繁華街にあるイベントバー。3月15日、「肉が如(ごと)く」の会場は熱気に包まれていた。40人以上の参加者が、豚や鶏のソテー、ビーフシチューといった肉料理に舌鼓を打っていた。
メインイベントはステーキの大食い競争。11人の挑戦者が、次から次へと運ばれてくるステーキを食べまくる。40分間で一番多く食べた人が優勝だ。サシが多い和牛に苦戦してフォークを口に運ぶ手が止まる挑戦者も。優勝した飲食店勤務の20代男性は1007グラムを平らげた。「普段からステーキとか600グラムぐらい食べるので」
会場の中央では、人気少女漫画「美少女戦士セーラームーン」のコスプレに、歌舞伎役者のようなメイクをした女性が大きな肉の塊を手際よくさばいていた。イベントの仕掛け人で、新潟市で塊肉専門販売店「お肉ジャパン」を経営する片根淳子さん(42)だ。
とにかく肉を食べまくる「肉が如く」は半年ごとに開き、今回で3回目。ただ飲んで食べるだけではなく、イベントの雰囲気を楽しんでもらおうと、コスプレにも挑戦している。今回は25キロの肉を使い切った。
片根さんは群馬県出身。子どもの頃から大の肉好きで、今でも牛肉など毎日400グラムは食べる。2015年、単身赴任中の夫がいる新潟に引っ越してきて感じたのは、肉料理が充実していないこと。「新潟は魚とかおいしいものがたくさんあるから、あんまり肉を食べないのかな」
それなら、自分で仕入れて売ってしまおうと、16年8月に店をオープンさせた。お店を開いた経験もなく、経営は独学。仕入れ先の肉屋にいい肉の見分け方などを教わった。
和牛にこだわり、最上級とされるA5かA4しか扱わず、価格設定も「スーパーやデパートよりもできるだけ安くすること」を心がける。1日で数百キロの肉を売り上げたこともある。SNSを通じて販売しているが、県外からの注文がほとんどだ。
新潟の市民が牛肉をあまり食べないことは、データにも表れている。
総務省の家計調査(15~17年の3年間の平均)によると、新潟市の牛肉消費量は1世帯あたり約3・46キログラム。県庁所在地と政令指定都市を含む52市のうち、下から2番目だ。トップの京都市は約9・78キログラムで、実に約2・8倍の開きがある。
片根さんは「なかなか大きい肉を一気に買うイメージがないのかもしれないね」。
それでも、あえて新潟で、塊肉専門にこだわる。塊肉なら大きいまま自由にサイズが切り分けられるからだ。肉好きにはたまらない魅力だ。「新潟で肉といったら誰もが私の顔を思い出すことが目標です」
肉の注文は販売用サイト(
https://www.facebook.com/onikujapan
)から。問い合わせは片根さん(090・4538・4157)まで。(川島大樹)
7、8枚をぺろり
記者(24)もイベントに参加して肉を食べてみた。県産和牛の尻の部分「イチボ」の塊肉を厚めに切り、塩とコショウをまぶして焼いてある。切りたての肉にかじりつくと、歯ごたえは想像よりもずっと優しく、和牛独特のクセのない脂身がすっとのどを通っていく。気づくとあっという間に7、8枚食べていた。
新潟の魚もおいしいけれど、まだまだ食べ盛りの記者は、たくさん肉を食べたい。こんな形で肉料理を提供してくれる店がもっと増えればうれしい。