イランの1日当たりの原油輸出量の推移
米国のトランプ政権が今月上旬にイラン核合意から離脱し制裁を再開すると表明したことで、イランのロハニ大統領の対外融和路線が窮地に立たされている。イラン経済を支える原油と伝統工芸品のペルシャじゅうたんは制裁によって大きな打撃を受けかねず、懸念の声が広がっている。
原油取引はイラン経済の屋台骨で、国家予算の約3割が原油頼りだ。地元メディアによると、イランの2017年の原油輸出は欧州向けが約4割で、中国が24%、インドが18%で続く。
イランのザンガネ石油相は制裁は「輸出に影響しない」とするが、米政府はイランとの原油取引が「二次的制裁」の対象になると表明。各国がイランから原油を輸入する際、イラン中央銀行との決済が必要となるが、決済に携わった外国銀行は制裁で米国の金融システムから締め出される。
影響が原油取引の約8割を占める欧州やアジアとの取引にも及べば、イラン経済は揺らぐ。ロハニ大統領は外資の呼び込みなどで原油依存度の低い経済も目指してきたが、成長という果実を失えば、不満が高まって対外融和路線のロハニ政権は窮地に立たされる。
ペルシャじゅうたんも打撃
特産品として名高いペルシャじゅうたんをはじめとするカーペットも米国の制裁再開で打撃を受ける。16年1月に核合意で制裁が解除されて輸出が可能になり、最大顧客となった米国を失うことになるためだ。
輸出業のバフマン・カフケシャニさん(45)は「せっかく米国に大手を振って輸出できるようになったのに」と、ため息をつく。
国立カーペットセンターによると、16年3月からの1年間で、米国への輸出はほぼゼロだった前年から約9700万ドル(約107億円)に急増。全体の4分の1以上を占める最大の輸出先になった。10年の制裁で輸出ができなくなるまで、米国はドイツやアラブ首長国連邦(UAE)と並ぶ大口顧客だった。
イランでは人口の約2割にあたる約1600万人が関連産業で働くとされるが、ここ20年ほど、中国などの追い上げを受けて世界的なシェアが低下した。
カフケシャニさんは「制裁が強化され、米国だけでなく欧州などへも輸出できなくなれば、産業は死んだも同じだ」と嘆く。(テヘラン=杉崎慎弥)