放棄された薬品工場の跡地。市による再開発が想定されている=独ドレスデン、吉田美智子撮影
負動産時代
日本には土地を「捨てる」制度が存在しない。ただでも買い手がつかないような土地を運悪く抱えてしまうと、売ることも捨てることもできず、管理コストや固定資産税の負担だけが残る「負動産化」が進む。ドイツでは、土地は捨てることができると法律に明記されているという。土地を捨てられる制度はどう運用されているのか。現地を訪ねた。
シリーズ「負動産時代」
独東部ドレスデン中心部の工業地帯。鉄道沿いの国道を少し入ったところに、コンクリート5階建ての廃虚があった。窓ガラスがところどころ割れ、建物の背後には広大な敷地が広がっていた。敷地面積は約1万5千平方メートル。旧東ドイツ時代には薬品工場として使われていたが、その後、捨てられたという。
ドイツの民法には「所有者が放棄の意思を土地登記所に表示し、土地登記簿に登記されることによって、放棄することができる」(928条1項)と明記されている。放棄された土地をまず先占する権利は「州に帰属する」(同2項)とも定められている。
この物件の所有者は2007年、法律に基づいて登記所で放棄の手続きをした。その後はザクセン州財務省系の公的団体「州中央土地管理ザクセン」が管理。物件の調査を担当したクラウディア・トロチェさんによると、立地が良かったためドレスデン市に再開発を持ちかけ、土地を市に無償で譲渡したという。
放棄された物件はこの団体が一括で管理している。需要がありそうな物件の情報をホームページで公開し、希望者がいれば売却する。
放棄された土地は、どこかに所有させなければならない義務もないため、ほとんどは「無主地」として管理されるが、そのコストは行政が負担せざるを得ない。ドイツ国内でも地域によっては、無主地の増加による行政の負担増が問題になっているという。
1990年の東西ドイツ統一後…