5月16日に閉鎖された伊東屋のフェイスブック。最後の投稿で閉鎖の理由を説明した
文房具専門店の伊東屋は今月、フェイスブック(FB)上の公式ページを閉鎖した。米FBの個人情報流出問題を受け、顧客情報を守ることを優先した判断だという。米国内でも3月に電気自動車のテスラや、宇宙開発のスペースXがFBページを削除した。情報流出問題の余波が日本の企業にも及びはじめた。
伊東屋は、FBの公式ページを7年前に始めた。週1回程度投稿し、イベント告知や商品紹介などに活用しており、約5万件の「いいね!」があった。閉鎖を知らせる14日の最後の投稿には、50件のコメントがつき、「残念」との声が目立ったが、閉鎖の判断にはおおむね好意的だった。
同社の松井幹雄執行役員は閉鎖の理由について、「FBが集めた個人データの活用のされ方に懸念があり、お客様とのコミュニケーションの場として、FBは適切ではないと判断した」と説明している。
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閉鎖の理由や、閉鎖後のSNSの活用について、松井氏に詳しく聞いた。主なやりとりは以下の通り。
――FB閉鎖を受け、どんな反応があったか。
「ネット上を中心に想像以上の反応があり、大変驚いている。お客様からは投稿へのコメントを通じて温かい言葉をいただき、大変ありがたいと思っている」
――いつからページの閉鎖を検討したのか。
「(4月10、11日に)FBのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が出席した米議会公聴会後に検討を始めた。個人情報不正利用やフェイクニュース拡散の問題が発覚したことを重く受け止め、経営陣が担当部署にFBページの閉鎖を検討するよう指示し、現場と相談して決めた」
――どんな点を重く受け止めたのか。
「伊東屋は、目指す世界を表す『ビジョン』の一つとして『心地よく過ごせる場所』を掲げている。この考えは、店舗でもネット上でも変わらない。FBの集めた個人データの活用のされ方に懸念がある以上、お客様とのコミュニケーションの場として、FBは適切ではないと判断した」
――FB側とは閉鎖の前に連絡は取ったのか。
「特に連絡は取っていない」
――FBはその後対策を取っているが、それを待つことは考えなかったのか。
「様々な対策を取り、改善されているのかもしれないが、本当に大丈夫なのかこちらではわからない部分もある。そうした対応を待ち、お客様との接点であるFBの利用をそのまま続けるのは良くないと考えた」
――伊東屋は、FB社傘下のインスタグラムも利用しているが、利用は継続するのか。
「現段階で、FB社に問題があると考えているわけではなく、FBのサービスに疑問を持っている。インスタグラムでは今回のような問題が起きていないと考えており、利用は続けるが、何かしらの問題が起きた場合は、今回と同じように対応を考える。逆にFBも懸念が晴れたと判断した場合は、利用を再開する可能性もある」
――FB閉鎖による今後のPR活動への影響は。
「FBはPRの大事なツールの一つとして活用していた。FBの閉鎖後、ツイッターが1千、インスタグラムが200ほど、それぞれフォロワーが増えた。これらのSNSだけでなく、ホームページの情報量をこれまで以上に充実させ、より使いやすくしていきたいと考えている」
フェイスブックの個人情報流出問題
今年3月にFBから最大8700万人の会員情報が不正に流出したことが発覚。性格診断アプリの利用者らの個人情報が抜き取られ、2016年の米大統領選でトランプ陣営を支援した英選挙コンサル会社に不正利用された疑いがある。日本でも最大10万人の情報が流出した可能性がある。(篠 健一郎)