焼きたてのクマヤキ。横を向いたヒグマの形が特徴だ=北海道津別町相生
オホーツク地方の山あいにある北海道津別町から生まれた「クマヤキ」が人気を呼んでいる。たい焼き風のスイーツだけど、見た目はぽっちゃり体形のヒグマ型。愛くるしい姿が「SNS映え」すると評判になり、東京の物産展で人気に火がついた。いまや、町の「PR大使」となっている。
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日曜日の13日、同町相生(あいおい)地区にある「道の駅あいおい」は多くの人でにぎわった。お目当ては、クマヤキだ。美幌町の主婦仲間4人は数個ずつ買い求めた。阿寒湖温泉からの帰り道に寄ったといい、50代の主婦は「ふわっとした食感とあんがおいしい」と笑った。
クマヤキはヒグマの形をした、たい焼き風のお菓子。あんこにオホーツク産の小豆、皮の生地には道産小麦を使っている。同じ道の駅で作る豆乳を生地にまぜ、柔らかく仕上げる。
茶色い皮の「ヒグマ」はあん、カスタード入りの2種。白い皮の「シロクマ」はあん入り。いずれも1個150円。「ナマクマ」(1個180円)は中身があんと生クリームだ。
道の駅の看板やのぼり、飲料水の自動販売機にはクマの絵があしらわれ、まさに「クマヤキ一色」。5月の大型連休は売り場に長蛇の列ができ、1日2千個以上売れた。これからのシーズンは道外の観光客やツアーバスが立ち寄り、週末は1日に700個、多い日は千個以上売れる。「間違いなくクマヤキは町や相生地区のPR大使です」。道の駅を運営する相生振興公社の伊藤同(ひとし)統括部長は話す。
林業が盛んだった相生地区には旧国鉄相生線が走り、旅館や食堂が立ち並んでいた。しかし、林業は衰え、1985年には相生線が廃線。過疎化が進み、今は約100人が暮らす。
地域振興に一役買ってきた道の駅の来客数も徐々に減るなか、2009年に生まれたのがクマヤキだった。同公社が道の「地域再生チャレンジ交付金」を受け、クマ型スイーツを開発。デザインは同町在住の造形作家・イラストレーター大西重成さんに依頼し、横を向き、ぽっちゃりしたヒグマの姿になった。
当初は1日20~30個売れるだけ。その後も売り上げは徐々に増える程度だった。転機は16年1月に訪れる。東京・東武百貨店池袋店の「大北海道展」に出店し、一躍脚光を浴びた。全国放送のテレビ番組で取り上げられたこともあって、ツイッターをはじめとしたSNSで評判が広がった。
同展は冬の開催。池袋店催事部の高見沢健さんが「あつあつのスイーツ」を探していたところ、北海道の友人にクマヤキを薦められた。「ネット上で『可愛い』『おいしい』と話題になっていたことにも着目しました」という。
3年目の今年も1月に6日間出店し、連日2千個以上が売れた。高見沢さんは「味が良く安価で、どことなく可愛らしいビジュアル」が人気の理由とみる。
これまで、福岡や愛媛、神奈川県などの百貨店、スーパーに出店を頼まれたが断ってきた。夏は道の駅あいおいでの営業が忙しく、出店は冬季に限られる。焼き手の確保も容易ではない。同公社の伊藤さんは「あくまでも北海道のスイーツとして根をおろしたい。ぜひ道の駅に来て、クマヤキや自慢のそばなどを食べてほしい」と話す。
いま、頭を悩ませているのが、催事に出かける際のクマヤキ器の輸送だ。重い物で1個90キロある。以前は運送会社に頼んでいたが、今はドライバーが1人で運べる重さのものしか扱ってもらえなくなった。今年、東武池袋店に出店する際は、レンタカーを運転して運んだという。
クマヤキの年間売り上げは約3千万円で、同公社の収入の柱だ。公社に出資する町は11月、約2900万円をかけて「クマヤキハウス」を建てる。現在のプレハブの売り場が老朽化したため、景観にマッチしたデザインの建物に一新する。(石間敦)