朝日新聞デジタルのアンケート
朝日新聞デジタルのアンケートでは、先生の忙しさの要因として部活動を挙げる声が多数寄せられました。「悪者」にされてしまうこともある部活動ですが、どのような変化が求められているのでしょうか。外部人材の導入や「週休2日」など新たな取り組みも紹介し、先生と部活動との関わり方を考えます。
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先生たちは実際、部活動にどれくらい関わり、どんな思いや悩みを抱えているのでしょうか。
スポーツ庁は昨年7月、全国の中学、高校845校を対象に運動系部活動の実態調査を行い、教員約2万7千人から回答を得ました。その結果、公立高の約6割、公立中、私立高の約5割、私立中の約2割が、平日の活動日数を「5日(毎日)」と答えました。1日の活動時間は、公立中高の約5割、私立高の約3割、私立中の約4割が「2~3時間」を選びました。
運動部の主担当顧問教員は顧問の配置について、公立、私立中教員の4割が「希望する教員のみ当たらせるべき」と答えました。
また、部活動に関する悩みを聞いたところ(複数回答)、「校務が忙しくて思うように指導できない」「自身の指導力不足」「校務との両立に限界を感じる」「自身のワーク・ライフ・バランス」などが挙げられました。公立中の校長の部活動に関する悩みについては、「顧問教員の負担軽減」が最も多くなりました。負担の大きさは学校全体で認識されているようです。
スポーツ庁は17年前にも運動部に関する調査をしています。対象の教員は約6千人ですが、運動部顧問の教員は当時も「校務が忙しくて思うように指導できない」「自分の専門的指導力の不足」「自分の研究や自由な時間等の妨げになっている」という悩みを挙げていました。部活動をめぐる教員の苦悩は長年解消されていないことがわかります。
スポーツ庁が今春策定したガイドラインは、部活動に関わる教員の多忙化解消も目的のひとつです。ガイドラインでは、週2日以上の休養日や、活動時間を「平日2時間、休日3時間程度」とする上限を設定。また、週末に大会や試合に参加することが顧問の負担にならないよう、大会の統廃合や、参加する大会の精査なども求めています。(円山史)
外から指導者 地域と連携
教員ではない部活動指導者を採り入れている自治体は全国にありますが、20年前に始めた神戸市は人数が多く、積極的な運用を続けています。同市立桜が丘中を訪ねました。
同校教諭で陸上部の顧問をして3年目になる森田悠一郎さん(26)は学生時代、サッカー部に入っていて専門的な陸上の指導経験がありませんでした。心強い味方が、7年前から外部指導者を務める榎本学さん(42)です。楽しみながら鍛える練習を考えたり、成績が伸び悩む生徒の相談に乗ったり。2人は電話で頻繁に連絡を取り、時に食事しながら話し合います。森田さんは「とてもいい関係が築けている」と感謝しています。
榎本さんは桜が丘中の卒業生。「社会に恩返ししたい」と、自ら外部指導者に手を挙げました。隣町の三木市ジュニアランニングクラブで13年前から指導を続けていて、子ども相手のコーチ経験が豊富です。鉄道関係の会社員で、ある程度自由にシフトを組めるため、平日でも夕方の練習に顔を出せる日があります。学校と決めた指導頻度は週1回以上、年間108日。男女35人の陸上部員それぞれの状況に見合った指導を心がけています。
神戸市は1998年度に外部指導者を導入しました。今年5月現在、公立中82校に計249人。役割によって、教員なしで遠征などを引率できる顧問、1人で練習を見ることができる支援員、技術指導などを行える指導員の三つに分かれています。
導入当初は、教員の異動によって学校から部活動の専門的な指導者がいなくなり、休廃部になるケースを防ぐことが狙いでした。市教育委員会の担当者は「教員の異動はどうしても教科が第一。部活動中心に動かすのは難しい」と言います。それが今では、教員の部活動指導の負担を和らげる役割も期待されています。
実際、桜が丘中の森田さんの負担は軽くなっていると言います。支援員の榎本さんは練習内容の充実、教員の森田さんは試合の手続きなどの事務作業と、分担できるからです。
桜が丘中では10年ほど前から部活動の外部指導者を受け入れ、現在は陸上部、剣道部、卓球部男子、生活かがく部の計4人。谷田達紀教頭(52)は「外部指導者は、子どもを第一に考えてくれる人、この地域に住んでいて学校の特性を理解してくれる人が望ましい」と言います。榎本さんのようにうまくいく事例はそう多くありません。人材確保のため、学校と地域クラブなどとの連携強化は喫緊の課題と言います。
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今年6月、桜が丘中は「部活動にかかわる活動方針」を定めました。3月にスポーツ庁が示した「部活動のあり方に関する総合的なガイドライン」に沿った内容です。
学期中は原則として水曜と土、日曜のどちらか1日の週2日以上を休養日とすること。1日の活動時間は長くとも平日2時間、休日は3時間程度にすること。早朝練習はやむを得ない場合を除き実施しないこと。大会の出場回数を見直すこと。季節ごとの完全下校時間も定めました。いずれも、生徒が部活一辺倒になることを避け、教員の長時間労働を減らし、家庭の経済的負担を減らすことなどを目的としています。
新たな活動方針には賛否両論があります。多いのは、練習の少なさへの不満。確かに「もっとうまくなりたい」と願う生徒の気持ちにどう応えるか、柔軟な対応は検討すべきです。ただ森田さんは「生徒たちが練習前に自主的に準備体操するようになった」と、限られた時間を有効に使おうとする意識の変化を感じています。「量から質」への転換は、部活動改革における重要なテーマになりそうです。(野村周平)
部活動 泣く泣く担当
部活動をめぐり、アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●「現場の先生自身は目の前に生徒たちがいるため自主的に仕事量を減らしたり、部活指導をやめたりする選択をすることは難しい。部活動の指導を外部に任せる、書類作成量を減らすなど文科省が積極的に労働時間と仕事量を減らす根本対策をとるべきだ」(その他 兵庫県・30代その他)
●「若い頃はそれが当たり前と思って時間など考えず働いてきたが、実際自分の身体が不調になったり、自分の子供が不登校気味で大荒れしたりしてハッと気づいてきた。突然死されたり、うつで休まれたりした方々もいる。仕事の合間に授業している、と言ってた先生もいた。まさに。部活顧問、駅伝担当、ついには担任を拒否する先生が増える。頼まれて断れないいい人が、無給かつ持ち出しもあって泣く泣く引き受ける。部活延長期間は、生徒下校は7時。それから仕事を片付け退勤8時。ほぼホカ弁生活。夕食終わって9時。駅伝指導は毎朝7時。異常。それを見て見ぬふり管理職。県大会出場の市内顧問は校長会主催の税金使っての激励会。書き切れぬ」(学校の先生 山形県・50代女性)
●「米国北西部在住です。当地の公立高校ではいわゆる部活、学級に相当するものがなく、休日は教師・生徒双方にとって文字通り休日。長期も含め学校そのものが閉鎖されています。スポーツは例外はありますが学校外で関わることが多いです。学校は文字通り教科を教え学ぶことが基本の場所であり、日本もその原点に立ち返ることを模索することも一考に値すると思います。ちなみに80~90年代に首都圏の私立高校で10年間教鞭(きょうべん)をとりました。部活への関わりは最低限、程々で(それが問題視されなかった。)その分授業の研究、準備に全力を注ぎました」(元学校の先生 海外・60代男性)
●「中学生になると、部活動で週末に親と過ごす時間もなくなります。これは先生方は家庭での時間を持てていないことを意味していると考えられます。先生も生徒も人間らしい余裕のある生活を送れるようになって欲しいです」(保護者 神奈川県・40代女性)
●「私の所属していた部活動の顧問の先生は、ほとんど毎週末にある練習試合に、自分でバスを運転して部員を連れて行ってくれました。バスの運転だけでなく、部員へのアドバイスはもちろん、大会の審判などもすることがあり、先生の休日はほとんどそれで終わっていました。そんな部活漬けの日々でしたが、先生は部員に対して恩着せがましくなることも、不満を漏らすこともありませんでした。私たちに強くなってほしい、色々な経験をさせたい、という気持ちが伝わっていました。だからといって、今の教員の働き方が正しいかは分からないですが、単に部活の時間を減らせばよいという問題ではないと思います」(大学生、大学院生 鹿児島県・20代女性)
●「中学校の部活動には、体を動かすだけではなく、様々な意義をもっている。大人との信頼関係の中で育つものも大きい発達段階の中で、単に外部から専門家を入れるだけでなく、それぞれの教育活動の意義を見直し、それに必要な教員数を確保することが大切である」(学校の先生 京都府・30代女性)
●「4月に異動してきた学校では部活動担当になりました。部活動保護者会では部活動のブラックな現状についてお伝えし、『助けてください』と保護者に理解を求めました。また、つい最近は『土日に部活動単位で勉強会をやる』という顧問にお願いし、中止にしてもらいました。部活動の範囲を超えていること、『あの先生はやってくれたのに』と、保護者の過度な要求を助長してしまうこと、公平性に欠けること、そして何より適切な働き方として。あなたの学校では、土日に勉強会をやる顧問、担任を飛び越えて進路面談する顧問、やり過ぎてしまう顧問の先生はいませんか?」(学校の先生 東京都・30代男性)
●「先生方が部活に総動員されているのは生徒たちが部活加入を仕向けられる加入強制性も一因。実ニーズの無い部まで維持されてしまうために多くの先生方を顧問にしなければならない側面もあるはず。過度に部活加入を推奨せず、全員加入しなければならない学校や生徒会のルールや自治体教委の方針ならば撤廃されたい。そして勤務時間前でもある朝練は禁止するとともに部活動指導員を大人数投入して任せていきながら地域移行を模索すべきだと思う。部活父母会などが部活終了後の夕練・夜練や部活休養日の休日練をしている学校であれば、それらの組織に部活全体を有償委託することで早期に地域移行が実現できると思う。制度設計を急いでいただきたい」(保護者 岩手県・50代男性)
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