小林被告の乗用車は左側ののり面に衝突し、弾みで宙を飛び、中央分離帯を越えて、対向の大型トラックにぶつかった=三重県亀山市関町福徳の名阪国道
三重県亀山市の名阪国道(国道25号)で2015年、中央分離帯を飛び越えた車が対向の大型トラックを直撃してトラックの運転手が死亡した事故で、危険運転致死罪に問われた小林俊博被告(28)の裁判員裁判が津地裁で開かれている。事故当時、小林被告は法定速度の2倍超で走行していたとされる。裁判では、こうした運転がより厳罰の危険運転致死罪に当たるかどうかが争われている。
検察側は論告で「極めて危険な運転で、被害者に落ち度はまったくなかった」と述べ、小林被告に懲役8年を求刑した。判決は28日に言い渡される。
事故は15年4月4日未明に発生。検察側の冒頭陳述などによると、小林被告は当時、三重県名張市から実家がある同県四日市市に向かっていた。法定速度60キロの2倍超の120キロ台で現場のカーブに進入すると、車はスリップして道路脇ののり面に接触。はずみで跳ね上がった車が対向車線の加藤友二さん(当時51)=和歌山県海南市=の大型トラックに衝突し、加藤さんは死亡した。
前夜の職場の懇親会で出発が遅くなったという小林被告。事故当時の心境を聞かれると、「少し急いでいた」が「鼻歌を歌い、ぎりぎりの運転のつもりではなかった」と語った。
危険運転致死罪が成立するには、小林被告の車が制御できないほどのスピードで走行していたことを立証する必要があるうえ、危険性の認識があったかどうかも問われる。一般的に死亡事故を起こしたときに適用される過失運転致死罪よりも立証のハードルは高い。
裁判で検察側は、現場のカーブを曲がりきれる限界速度を134・5キロと算出。時速120キロ台は「極めて危険であり、車の制御を困難にし得る速度」と主張。弁護側は「名阪国道では120キロ台で走行している車もあり、一般的な運転技能があれば制御可能な速度」とし、過失運転致死罪の適用を求めている。
速度超過が多い理由は
名阪国道は三重県亀山市と奈良県天理市を結ぶ全長73・3キロの無料の自動車専用道路だ。東名阪、西名阪の二つの高速道路と接続し、一部区間を除いて60キロに制限されている。だが、実際は高速道路並みのスピードで走る車も多く、死亡事故が多発する道路として知られる。
本線に信号機はなく、交通標識も自動車専用道路なので高速道路と同じ緑色。ドライバーが高速道路と勘違いするのも無理はないが、一方で道路の構造は急勾配や急カーブが多い。
帝塚山大学長の蓮花一己教授(交通心理学)は「高速道路と同じ感覚で走っているが、高速道路とするには十分な規格にない」と指摘。本来はトンネルを通すべき部分も山の周囲を通る形で開通させたといい、「ドライバーが道路構造の危険性を理解し、適正な速度を守るように」と警鐘を鳴らす。
難所がありながら、高速道路のような国道が生まれたのは、急ピッチで進められた工事に一因がある。交通量が増え始めた1960年代前半、東海と近畿を結ぶ幹線の開通を求める声が高まった。奈良側には「オメガ(Ω)カーブ」と呼ばれ、レース場のような急カーブが続く難所もある。
2016年までの10年間で、名阪国道の死亡事故は48件あり、死者は52人にのぼる。道路を管理する国土交通省北勢国道事務所は、急カーブのある地点で減速を呼びかける標識を設置するなどして事故抑止に取り組んでいるほか、三重県警も取り締まりを強化している。(三浦惇平)