後半、パスを回す日本。時間稼ぎのプレーにブーイングが飛び、スタンドを後にする観客の姿も見られた=28日、ロシア・ボルゴグラード、長島一浩撮影
日本が決勝トーナメント進出を決めたサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会。28日のポーランド戦、ボルゴグラードのスタジアムは最後の10分間、ブーイングが響き渡る異様な雰囲気に包まれた。
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後半37分、長谷部誠(34)が投入されてまもなくだった。異変に気づいた観客席がざわつき始めた。同点弾を祈って声をからしてきたのに、急に日本が攻め気を失いボールを回し始めた。
「どうなってんの?」「コロンビアが1点勝ってるらしい」。スマホを通じて多くの人たちはすぐに状況を把握した。それでも、負けている状況での時間稼ぎに戸惑いが隠せない。
やがて、会場からブーイングが起き始めた。3分間の追加時間に入り、そのボリュームは何倍にも増していく。日本を応援していたロシア人たちも、一斉に態度を変える。「負けていいのか!」と日本人からも声が飛ぶ。目の前の試合よりもスマホに注意が向く。応援の声も途切れ、異様な空気に包まれながら、試合終了の笛が鳴った。
試合後、決勝トーナメント進出の歓喜は控えめに終わった。「こんな気持ちになったのは初めて。素直に喜べない」と話すのは2006年ドイツ大会から観戦を続ける菅野聡さん(36)。小島類二さん(21)も「負けている状況でこれは、サッカー好きとして許せない。選手もつらかったはず。なにより、セネガルが追いついたらどうしていたんだ」と憤った。
一方で、「英断」と評価する向きも多かった。松本佳海さん(26)は「世界で勝つには必要なこと。ブーイングする気持ちはわかるが、欧州なら当たり前。日本がここまでできたことが、むしろ感慨深い」。金子裕さん(41)も「事前にすべてシミュレーションしていなければ、ここまで徹底できない。リスクと残り時間を考えた上での、すごい決断だった」と話した。
海外のサポーターの間では、不満が大勢を占めた。隣町から観戦に訪れたセルゲイ・ジュコフさん(38)は「これがボルゴグラードでの最後の試合だったのに。日本は好きだったけど、最後は残念」。
ポーランドから初のW杯観戦に来たトマシク・マテオスさん(25)も「この舞台で最高のフットボールを見るために来た。ポーランドは3戦で一番いい試合をしたけど、あれは本当に失望したね」と話した。(ボルゴグラード=高野遼)