(24日、高校野球静岡大会 島田商10―9静岡市立)
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2点を追う八回裏、静岡市立の主将高松勇貴君(3年)は味方の中前打で生還した。スタンドが大きく沸く中、ベンチのみんなとハイタッチする。最後に待っていたのがチームの4番、菊場想太君(同)。目が合うと、互いににやりと笑った。こいつがいなかったら、ここまで来られなかっただろうな――。心からそう思った。
半年前の1月。高松君は菊場君ら副主将3人を呼び出し、怒りながら涙を流した。誰よりも先にグラウンドに出て練習の準備をしたり、監督の指示を伝達したり。後輩に厳しく注意することもあった。チームのために動いているのは自分だけ。そんな思いを抱き、孤独に感じていた。「自分の姿を見て3人にもやってほしかった」
主将なのに、試合ではみんなより活躍できていない――。そんな意識もあり、思ったことをなかなか口にできずにいた。高松君の心は限界だった。
菊場君は、つられて泣いた。「今までつらい思いをさせていたんだな、と思った。全て任せていたことが申し訳なくなって行動を変えた」と振り返る。
主将の涙に、3人は動いた。声出しや後輩への注意なども、率先してするようになった。「別人みたいだった」と高松君は笑う。副主将3人の「変貌(へんぼう)」は部内全体に伝染した。夏を前にして役職のない部員も徐々に自ら動いてくれるようになった。
大会が始まってからは、3回戦の科学技術との試合でサヨナラ勝ちを決めるなどチームが流れに乗っている実感もあった。「ベンチにもなんとなく『いける』という雰囲気をつくることができた」
だが、タイブレークとなった延長十四回の接戦の末、チームは敗退した。「負けたのは悔しいけど、今までの高校生活で一番楽しい試合だった。みんなにはただ、ありがとうと伝えたい」。笑顔をたたえる高松君の頰に、一筋の涙が伝った。=草薙(松田果穂)