3万7千の民を率いて島原の乱を起こしたとされる天草四郎。その生涯に大胆な脚色を加えたミュージカル「メサイア―異聞・天草四郎―」が宝塚大劇場で上演中だ。就任5年目に入った花組トップスター明日海(あすみ)りおが、求心力をいかして四郎のカリスマ性を体現している。
16歳で一揆を起こしたとされる四郎だが、今作ではもとは倭寇(わこう)のリーダーで、20代半ばという設定。嵐で遭難して天草の島に流れ着き、四郎という名を与えられる。作・演出の原田諒(りょう)は「明日海の美しさ、みずみずしさだけでなく、骨太さ、男役としての輪郭の濃さを十二分に出したいと思った」と狙いを話す。
明日海は「四郎の根本は熱くて、愛にあふれ、信念の強い人」。現代的なエッセンスが加えられた衣装、こだわりの髪形もきまり、ビジュアル面でも魅力的だ。
四郎を助けた天草の民は、重い年貢とキリシタン弾圧に苦しみながらも、死後は「はらいそ(天国)」に行けると信仰にすがる。「命ある者を救ってこその神ではないのか」と葛藤する四郎。「神は心にいる。俺たちは生きて、生きて、この地をはらいそに変えるんだ」。四郎が一揆を決意するまでの心中が丁寧に描かれる。人々が四郎を「メサイア」とたたえ、立ち上がるナンバーは感動的だ。四郎を体現する明日海に引き込まれ、原城の落城には涙する。
四郎と恋仲になる流雨(るう)を演じるトップ娘役の仙名(せんな)彩世(あやせ)は透明感あふれる歌と芝居で物語に光を与える。南蛮絵師・リノ役の柚香(ゆずか)光(れい)は信仰に生きる誠実な青年を好演。一揆の引き金を引く悪役をすごみをもって演じた鳳月(ほうづき)杏(あん)、幕府の論理を徹底させる明敏さに、最後のひとすじの涙で情けもみせた老中・松平信綱役の水美(みなみ)舞斗(まいと)も光った。
併演のショー「ビューティフル・ガーデン」は、まさに百花繚乱(ひゃっかりょうらん)。柚香、瀬戸かずや、鳳月、水美ら、単独でも場面を引っ張っていける男役がそろい、花組の層の厚さを感じさせる。作・演出は野口幸作。
8月20日まで。