(18日、高校野球 金足農3―2近江)
「これが甲子園の9回か」 サヨナラ負けの近江左腕・林
「甲子園、感動与える本気の夏に」近江・中尾主将が宣誓
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金足農(秋田)と対戦した近江(滋賀)は1点リードの九回裏一、二塁のピンチ。「思い切っていけよ」。今大会の選手宣誓をした主将の中尾雄斗君(3年)がマウンドへ伝令に走り、仲間に笑顔を振りまいた。これまでの逆境もそうして乗り越えてきた。
昨夏の滋賀大会決勝、同点で迎えた五回のピンチ。二塁手だった中尾君の失策で相手の彦根東に決勝点を許した。「自分のせいで甲子園を逃した」と自分を責めた。
「もうこんな思いを誰にもしてほしくない。どんなときも一つひとつのプレーに集中できるチームをつくりたい」。新チームになると、主将に名乗り出た。だが、多賀章仁(あきと)監督(59)からは「しばらく様子をみて判断する」とすぐには認めてもらえなかった。
そこで、練習では率先して道具を準備し、集中力に欠けるプレーがあれば、「自分が決勝でしたようなミスにつながるぞ」と自身の失敗を引き合いにして注意した。滋賀大会の失策を見ていた吹奏楽部員から「笑顔がなくなってたで」と言われ、「苦しい時こそ笑顔を忘れないでいよう」と心に決めた。しばらくして、主将に選ばれた。
選手としてはレギュラー争いが激しく、今夏は途中出場が多い。それでも2回戦でサヨナラ勝ちした前橋育英(群馬)戦では、「重い空気のときは自分が盛り上げる。一番笑顔で、元気にいこう」とベンチでも、グラウンドでも誰よりも声を張った。多賀監督は「中尾がいると雰囲気が明るくなり、流れを引き寄せる力がある。今では中尾しか主将は考えられない」と成長を認める。
中尾君は堺市の出身。今大会に出場し、春夏連覇を狙う大阪桐蔭(北大阪)の中川卓也主将(3年)とは小中高校と対戦経験があり、交流もある。中川君も昨夏の甲子園で一塁ベースを踏み外し、その後にチームは逆転サヨナラ負け。その後、主将になった。「同じような経験をしているからこそ、主将としてチームを引っ張っていけるんだろうな」と自分と重ねることもあるという。
準々決勝のこの日、九回裏のピンチは無死満塁となり、相手の2ランスクイズで逆転サヨナラ負けした。マウンド上でぼうぜんとする投手の林優樹君(2年)と、本塁上で突っ伏して立ち上がれない捕手の有馬諒君(同)に「おまえらには来年もある。前を向こう」と声をかけて、励ました。
開会式の選手宣誓で言った。「多くの人々に笑顔と感動を与えられる、最も熱い、本気の夏にする」と。
中尾君は「自分が誓った『笑顔』のポリシーを最後まで貫けた」とさわやかに語り、球場をあとにした。(石川友恵)