(18日、高校野球 金足農3―2近江)
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金足農を押す手拍子が大音響で甲子園にこだまする。その異様な雰囲気の中で、誰よりも冷静だったのは、球場のど真ん中にいた二塁走者の菊地彪だった。1点を追う九回無死満塁。3球目だ。中泉監督のスクイズのサインが出る。「よし、狙ってやると」
9番斎藤が絶妙のバントを三塁手の前に転がす。菊地彪は「捕った時点でいくつもりだった。三塁手に自分の動きは見えない」。
チーム一の俊足を生かして迷わず三塁を蹴った。「ボールは見ていない。ホームだけを見た」。一塁から本塁への返球と同時にヘッドスライディング。「2ランスクイズは想定していなかった」という近江の捕手有馬の下をダイブするようにすり抜けた。球審が両手を広げた瞬間、逆転サヨナラが完成した。
味方の予想も超えていた。スクイズを決めた斎藤は「よし。追いついた」。中泉監督も「同点になったなと。次のランナーは正直、見ていなかった」。「2―2」では満足しなかった菊地彪の好判断が土壇場での逆転を呼び込んだ。
大舞台で実ったスペシャルプレーは、日頃の練習のたまものだ。斎藤は打撃練習の8割をバントに費やしてきた。あらゆる状況を想定して10種類。「満塁なら三塁手に捕らせる」のもその一つだ。「一発で決めなきゃいけないから、ヒットよりもスクイズの方が難しい。でも僕はあそこで決める自信があった」。今大会9打数無安打の9番打者の誇りだ。
横浜戦での高橋の逆転3ラン。そしてこの日の劇的なサヨナラ2ランスクイズ。エースの吉田だけではない。次々とヒーローが誕生する勝ち上がり方は、まさにミラクルだ。公立農業高校が、100回大会の主役に躍り出た。(岩佐友)