米東部ペンシルベニア州ピッツバーグ市のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で27日午前、白人の男が銃を発砲した。同市によると、礼拝に来ていた11人が死亡したほか、警察官4人を含む計6人が重傷を負ったという。トランプ大統領は「反ユダヤ主義による犯罪だ」と非難し、「こうした犯罪が続くなら、死刑を復活させなければならない」などと述べた。ユダヤ教徒を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)として、連邦捜査局(FBI)が捜査にあたっている。
米メディアなどによると、現場周辺はユダヤ教徒が多く住む地域。事件当時、シナゴーグでは赤ちゃんへの命名式が行われていたという。犯人が建物に入った際、「すべてのユダヤ教徒は死ななければならない」などと叫んだとの情報がある。
現場を見た同市幹部はメディアに「今まで見た中でも、もっとも恐ろしい現場だった。航空機の墜落現場のようだった」と語った。同市によると、男による単独の犯行で爆発物などは現場から見つかっていない。
CNNは捜査当局の情報として、事件を起こしたのはロバート・バウアーズ容疑者(46)と報じた。バウアーズ容疑者のものとされるSNSには犯行前、「私の人々が大虐殺されるのを傍観することは出来ない。攻撃に入る」と書かれていた。ほかにも反ユダヤ主義的な書き込みがあるといい、捜査当局が動機などを調べている。
米国では11月6日投開票の中間選挙が迫る中、トランプ支持者とされる男がオバマ前大統領や民主党議員に爆発物を送りつける事件が発生したばかり。さらに今回、反ユダヤ主義者によるとみられる犯行が起きるなど、社会の分断を象徴するような暴力事件が立て続けに起きた。
トランプ大統領は27日午前、ツイッターで「事態を注視している。多くの死者が出たようだ。神のご加護を」と述べ、哀悼の意を表明した。トランプ氏の長女イバンカ氏とその夫クシュナー氏がユダヤ教徒。
さらにトランプ氏は同日昼、中間選挙の演説集会で米中西部イリノイ州に向かう前、ワシントン郊外で記者団に「憎悪による恐ろしいことが、この国で起きている」と述べ、この事案がヘイトクライムであることを認めた。
その上で「礼拝所の中に防衛装備があれば、こういう結果にならなかった可能性がある」と述べ、再発防止には銃規制ではなく、礼拝所に武装した警備員を配置するなどの対策の方が好ましいとの考えを明らかにした。
27日夕、イリノイ州マーフィーズボロの選挙集会で演説したトランプ氏は、事件について「この邪悪な反ユダヤの攻撃は、私たちすべてに対する攻撃だ。人類に対する攻撃だ」と非難した。そのうえで、「こうした犯罪が続くなら、死刑を復活させなければならない」と語った。
トランプ氏は今年2月、フロリダ州パークランドの高校で17人の生徒らが死亡した銃乱射事件の後も、強力な共和党やトランプ氏への支持団体である「全米ライフル協会」(NRA)に配慮し、銃規制ではなく、学校の武装化を主張した。
また、トランプ氏は記者団に、死刑の強化にも言及。「こんなことをする人間は死刑を受けるべきだ。執行までに何年も何年もかかるべきではない。弁護士やあらゆる人が関与して10年もかかる。法律を強化して、やりやすくするべきだ」と述べた。(ピッツバーグ=金成隆一、杉山正、マーフィーズボロ=春日芳晃)