カナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(86)は、ノーベル平和賞を昨年12月に受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」とともに活動し、各地で原爆の非人道性を訴えてきた。里帰りした広島で朝日新聞のインタビューに応じ、「核なき世界」に向けて一人ひとりができることについて、思いを語った。
被爆者は今、核兵器と人類の関係は…核といのちを考える
いろいろな平和運動に関わってきましたが、10年ほど前にICANに出会い、感動したんです。若い人たちがよく勉強し、情熱を持って携わっている。会議で決まったことをツイッターなどでぱぱっと世界中に広め、世界の若者が反応する。それが成功した理由のひとつだと思うんです。
かつての核兵器の議論は、抑止論など軍事的、安全保障のことばかりでした。でも、10年ぐらい前から核兵器の非人道性に焦点をあてた議論が中心になり、爆発的な勢いで広がった。それが世界の若者たちを引きつけ、ICANの献身的な活動の原動力になってきたと思います。
今回、広島に戻って「頑張ってください、祈っています」とよく声をかけられました。そうではなく「一緒にやりましょう」という表明を感じたい。もっともっと力強い広島からの発信があるべきです。
私たち原爆で生き残った者は、「二度とああいうことが起きてはいけない」「あれは人間が経験すべきことではなかった」という確信を持っています。昨年7月7日に国連で採択された核兵器禁止条約は、やっと手に入れたその第一歩でした。
あの日の、あるいはその後の被爆者たちの苦しみ、無数の死者たちの声なき声を私は代弁してきたつもりです。求め続けた核兵器廃絶への思いが、一部だけどやっと報われたんです。
条約が発効するには50カ国が批准しなければいけない。日本政府は海外で「核廃絶のためにリーダーシップをふるっている」とよく言いますが、実際には、核禁条約の交渉会議に参加せず、条約に反対し、言動が一致していません。核兵器を持っている国の背後にいて、勇敢さが欠けている。日本政府が賛同の一票を入れる動きが見たい。
広島と長崎が率先し、この条約の批准を政府に迫るのは、我々市民の責任だと思っています。声を大きくして日本政府に50カ国の一つになるよう、一人ひとりが手紙を書くなり、国会議員に会って議論なさるなり、方法があります。
日本が先頭に立って人道的な、道徳的なたいまつをかざし、核兵器廃絶に向けて一緒に働きましょうよ。そうすれば、日本という国が、どれだけ世界からの尊敬や敬愛を受ける立場になるか。前向きにこの機会を見てもらいたいですね。(構成・大隈崇、宮崎園子)