民泊のルールを定めた新法「住宅宿泊事業法」が施行されて15日で半年になる。違法な「ヤミ民泊」をなくそうと、物件の届け出を義務づけるなどの規制を設けた。空き家を民泊施設として再生させるケースが出てきている一方、新法ができてもヤミ民泊はなくならず、業界は違法業者の排除に乗り出した。
訪日客の宿泊者数が昨年約6万人と過去最高になった和歌山県那智勝浦町。築約100年の古民家に「民泊 玉の浦Sea」の真新しい看板がかかる。近くに住む宗時滋子さん(69)が9月にオープンした。客の9割が訪日客だ。
仲介サイトには「美しい海岸に近い、素敵な古い家」(スペイン人男性)、「日本での旅行で最も印象的だった宿」(ドイツ人女性)といった好意的なコメントが並ぶ。
宗時さんの祖父が建てた家で、親戚が泊まりに来る夏場以外は空き家だったが、何とか生かしたいと民泊の登録を決めた。当初は営業日数が長い旅館業法上の簡易宿所にしようとしたが浄化槽の基準が合わなかった。トイレを洋式にしたり、Wi―Fiをつけたりして訪日客を受け入れた。2人なら1泊1万円未満だという。
「こんな田舎の家なのにありがたい。お金もうけではなくて完全に趣味。気楽に自由にできるのが民泊の魅力だと思います」と宗時さんは話す。
観光庁によると、民泊新法が施行された6月15日~9月末までに、延べ約25万3千人が民泊を利用した。民泊の登録物件は全国で約1万790件(11月末)ある。
新法では、民泊として営業できる日数を年180日に限るルールを定めた。住民とのトラブルを避けるため、都市部の一部自治体では条例で独自規制をかけた。この結果、より規制の緩いユースホステルなど「簡易宿所」などで営業許可を得る物件が増えた。大和総研の市川拓也主任研究員は「民泊はホームステイ感覚で国際交流を気軽に楽しむスタイルが大切だ。参入に厳しい規制を設けると、オーナーはヤミ民泊をするか、やめるかしかなくなる。そのため新法施行前と比べ、あまり件数が伸びていないのだろう」と指摘する。
一方、新法の施行後もヤミ民泊は絶えない。観光庁は10月、虚偽の届け出番号を掲載するなど、違法の疑いがありながら仲介サイトに載っている物件が約5千件(6月時点)に達したとの調査結果を発表。掲載業者に削除を指導した。
業界も対策に乗り出した。米エアビーアンドビー、中国の途家(トゥージア)、オランダのブッキング・ドットコムなど民泊仲介を手がける国内外の9社は11日、新たに業界団体「住宅宿泊協会」を立ち上げると発表した。違法な民泊物件の情報を会員内で共有するしくみを検討するほか、行政などへの提言、物件オーナー向けの研修なども行う。この日、観光庁とともに準備会議を開いて設立に合意した。
上山康博代表理事(百戦錬磨社長)は会見で「違法民泊をゼロにすることが第一だ。合法な民泊が地域に受け入れていただけるようにしたい」と話した。(中島嘉克、田中美保)