公共の場で、子どもの泣き声やぐずる姿は歓迎されない。仕方なくスマホを見せてあやそうとすれば、今度は「スマホなんか使って……」。スマホ育児の背後には社会の不寛容も見え隠れする。
「昔と違う」言えなくて 共働き、スマホ育児にジレンマ
悩む母たち700人、深夜に集うネット空間「救われる」
子育て世代には、社会からのプレッシャーもある。
東京都の30代の女性は9月、都心から郊外へ向かう電車で焦った。1歳半の息子がぐずって「あーっ」と大きな声をあげ、乗客の視線が集まった。「静かにね」と言ったが、聞いてくれない。いたたまれず、スマホを出して動画を見せると、やっと静かになった。そのときだった。
「子どもにスマホばかり見せて。やっぱり若いお母さんよね」。近くにいた年配の女性たちが自分を非難する声を聞いた。
「じゃあどうすればいいの? 降りればいいの?」
ほぼ毎日一人で息子の世話をする。息子と一日中向き合っていると、さすがに息が詰まり、外に出る用事を作った。それなのに――。
子どもの声に対する世間の受け止めは必ずしも温かくない。2012年には、女性漫画家が飛行機の中で泣いていた赤ちゃんとその母親に激怒したことを雑誌に投稿し、話題になった。保育園での子どもたちの声が「騒音」と受け止められ、建設が進まない問題も持ち上がっている。
妊娠・出産・育児情報サイト「ベビカム」が2017年に0~6歳の保護者約400人を対象に行った調査では、子どもにスマホを使わせる場面として「子どもが泣いていたり、騒いだりしているとき」が43・6%あった。
全日空は同年、ベビー用品大手のコンビなどと「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクトを始めた。泣き声で周りの人に迷惑がかかることが気がかりで、飛行機を避ける親もいるため、そのような人たちが安心して利用できるように乳児の「快適さ」を探るのが狙いという。私鉄73社でつくる日本民営鉄道協会が1999年度から続ける車内の「迷惑と感じる行為」の調査では09年度以降、「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」が9年続けてトップだ。「はしゃぎまわり」には子どもの行動が含まれるとみられる。
子育て支援に取り組むNPO法人フローレンスの代表理事駒崎弘樹さん(39)は「少子化で子どもに触れる機会が減り、聞き慣れていない子どもの声を不快と感じるようになった」とみる。「幼い子が泣いたり騒いだりするのは当たり前なのに、『静かにさせろ』という圧力で親が肩身の狭い思いをし、スマホを使うとそれも非難される」と話す。自身も子育て中で、一緒に動画を見ることもよくある。「『スマホに子守をさせるな』などというのは、親たちを追い詰める『呪いの言葉』。自分たちは少しも子育てに関与せず、高いところから見下ろして指導してやろうというおごりを感じる」と憤る。「例えば、電車の中でも子どもの泣き声に舌打ちをしたり、にらみつけたりするのではなく、ほほえんでくれる人が増えれば、スマホを使わざるをえない状況はだいぶ解消されるのではないか」
ネットを使う子育て中の親に上の世代や周囲の社会は優しくなれるだろうか。(栗田優美、西村綾華)