一人が一つのコップに注げる水の量には決まりがありますが、コップはいくつ使っても構いません――。こんな決まりがあったら、どう思いますか。政治資金収支報告書を調べると、政治献金の上限をかいくぐるような寄付の方法が見つかりました。コップは政治家の政治団体で、水はお金です。
政治資金
代表・所在地同じ5社から
自民党の池田佳隆衆院議員(52)=比例東海=が代表を務める政党支部「自民党愛知県第3選挙区支部」は、愛知県内のパチンコ関連5社から計2200万円の寄付を受け取っていた。法人登記簿によると、5社は代表者と本社所在地が同じ。
5社とは代表者と本社所在地が異なるが、パチンコ関連会社がホームページで「グループ会社」と紹介している1社からも池田氏側は寄付を受けていた。6社からの総額は2440万円に上った。
政治資金規正法は、1社が年間に寄付できる総額を資本金などに応じ、750万円~1億円に制限している。登記簿に記載された資本金に照らすと、パチンコ関連5社の上限額はそれぞれ年750万円だ。同法は1社の上限額だけを規制しているため、複数のグループや関連の企業がそれぞれ寄付し、結果的に総額が1社あたりの上限額を超えても違法ではない。
収支報告書によると、5社は17年、池田氏の政党支部にそれぞれ280万~520万円を寄付した。池田氏側は朝日新聞の取材に対し、「それぞれ独立した法人と認識しており、量的規制に違反していない」と回答した。パチンコ関連の5社のうち1社には文書で取材を申し込んだが、「政治活動の自由がある」として応じなかった。
複数団体通じ出身議員に
トヨタ系労組の政治団体「全トヨタ政治に参加する会」(全ト参政会)は、トヨタ労組出身で国民民主党の浜口誠参院議員(53)=全国比例=が関係する二つの政治団体に計6千万円の寄付をしていた。
政治団体間の寄付の上限は年5千万円だが、複数の政治団体に寄付をすることで、結果的に1人の政治家に5千万円を超える寄付が渡っていた格好だ。
収支報告書によると、全ト参政会は17年の1年間で、浜口氏の資金管理団体「浜誠会」に3500万円、関係政治団体「濱口誠後援会」に2500万円を寄付していた。
また、政党支部への寄付には法律上の上限はないが、全ト参政会から浜口氏が代表の政党支部「民進党参議院比例区第18総支部(当時)」にも2500万円を寄付していた。
浜口氏側の3団体への寄付の日付はいずれも同じで、総額8500万円に上った。
全ト参政会は浜口氏と同じくトヨタ労組出身で、国民民主党の古本伸一郎衆院議員(53)=愛知11区=の資金管理団体「政伸会」と関係政治団体「古本伸一郎後援会」にも計7500万円を寄付。古本氏が代表の政党支部「民進党愛知県第11区総支部(当時)」には3500万円を寄付し、総額は1億1千万円だった。
全ト参政会は朝日新聞の取材に「法にのっとって寄付を行ったもので、寄付を分散していることはございません」と答えた。
浜口氏の事務所は「団体は独立した別団体で、法に基づき適正に手続きを行っている」と回答した。古本氏の事務所は、全ト参政会から寄付を受けた各政治団体について「独自の目的を持って設立している政治団体」と説明。その上で「寄付は寄付者の判断かと承知しており、特定の寄付を分割して受け取っているものではない」と答えた。(大野晴香、三浦惇平、室田賢)
識者「分散に見え、脱法的」
岩井奉信・日大教授(政治学)の話 パチンコ関連5社の寄付は政治資金規制法の量的規制を免れるため、関係する企業が分散して献金しているようにも見える。違法ではないが、関係会社を使えばいくらでも寄付が可能になり、政治家と企業・団体との金銭的な癒着を防ぐという量的規制の趣旨に照らせば、脱法的と言わざるを得ない。企業や団体が業界側の代弁を期待している議員に対し、このような方法で規制を免れる寄付をすることは昔からある手法で、法律を改正しない限り防ぎようがないのが実情だ。