名古屋市緑区で1月、事件に遭遇した市民が容疑者をとっさに取り押さえる“逮捕劇”が相次いだ。県警緑署はこのほど、お手柄の3人に感謝状を贈った。
12日午後10時半ごろ。名古屋市職員の藤井利彦さん(43)は自宅2階で電気を消し、布団に入ろうとしていた。
ガタガタ。外から音がした。猫かと思ってベランダに出ると、暗闇にうずくまる男が見えた。「なにやっとんだ!」。とっさに声を上げると、何かを手に持って向かってきた。突き飛ばされたが、家の中を通り抜けて外へ逃げる男を裸足で追った。
「待てー」。住宅街に響く藤井さんの声に気づいたのは、近所の土屋正高さん(47)。リビングでテレビを見ていた。尋常ではない大声にスリッパで外へ出た。追いかける藤井さんを追い抜いて、男の首根っこをつかんだ。男は「もう逃げないから」と言いつつも抵抗し、3人でもみ合いになった。
2人が応援を呼べないほど、男は抵抗し続けたという。手に持っていたのはマイナスドライバーだったとみられる。藤井さんの妻の通報で警察官が到着し、男を引き渡した。47歳の男は、空き巣に入ろうとしていたとみられるという。
藤井さんの部屋には6歳の娘も寝ていた。子どもが同級生という土屋さんは、「子育てしている人が多い地域だが、1ブロック離れたら何が起きているかはわからない。情報を共有しないと」。藤井さんは「本当にありがたい。娘が気づかなくて良かった」と胸をなで下ろしていた。
成人式直前 万引き容疑者出くわし
新成人の菊地蓮さん(20)は、緑区内で成人式があった14日、万引きの容疑者の男を取り押さえた。
式の受付時間までの間、コンビニで缶コーヒーを買い、暇をつぶしていた。再会した中学時代の同級生2人と旧交を温めていると、店員と1人の男が店から出てきた。「とったでしょ」。万引きを疑う店員と口論が始まったかと思うと、男は突然、逃げ出した。
「何も考えずに体が動いた」と菊地さん。スーツ姿で追い、男に突進。左腕をつかんだ。週3で通う合気道で教わった技だ。追いついた友人2人も加勢し、男を警察官に引き渡した。
40代の土木作業員の男は、たばこを万引きした疑いで逮捕された。菊地さんは式に5分ほど遅れたが、その後、緑署から感謝状が贈られた。「謙虚で素直な大人になりたい」とにこやかに話していた。(田中恭太)