政情不安が続く南米ベネズエラには、「2人の大統領」がいます。マドゥロ氏(56)と、暫定大統領を宣言した反マドゥロ派のグアイド国会議長(35)です。ニュースによく登場する2人ですが、どういう人物なのでしょうか。ベネズエラ情勢に詳しいジェトロ・アジア経済研究所の坂口安紀さん(ベネズエラ地域研究)に聞いた。
国際ニュースを解説「今さら聞けない世界」
――マドゥロ氏は、どういう人物なのでしょうか?
実は彼の出自については現地で議論になっています。というのも、マドゥロ氏にはコロンビア国籍があるという説が根強いからです。ベネズエラ憲法では、大統領に選出される条件として「ベネズエラ人であること」と「他国の国籍を持っていないこと」を定めています。そうなると、コロンビア国籍を持っている疑惑のあるマドゥロ氏は大統領になれず、憲法違反になります。政府はマドゥロ氏がベネズエラ生まれだと主張していますが、出生証明書など一切の提出を拒んでいます。母親がコロンビア人であることは確かなのですが。
国民的英雄であるチャベス前大統領は、幼少時代に祖母を手伝った話を、演説などで盛んに用いました。でもマドゥロ氏の物語は、大人になってからのバス運転手の話から。幼少時代についてはかたくなに触れず、写真も公開していません。そのことがマドゥロ氏への疑念を増幅させ、野党は「マドゥロ氏に大統領の資格はない」と攻撃していました。だけど、マドゥロ氏を支える「チャベス派」で占められる選挙管理委員会は、問題ないという見解を示しています。
――そうなると、マドゥロ氏の経歴で確かなのは何になりますか?
時期ははっきりしませんが、先ほどお話ししたバス運転手です。その後、労働組合のリーダーになり、政界に転じました。
チャベス氏のカリスマを利用
――キューバにも行っていますよね?
これも同じく時期がはっきりしませんが、10代後半から20代前半にかけて1年間、思想教育を受けに行っていたといわれています。キューバが自国の社会主義的な思想をベネズエラへ広めるためにマドゥロ氏を呼んだとの臆測もありますが、真相は不明です。チャベス氏と同様に、キューバで教育を受けてキューバのような社会主義に心酔したとされています。
――マドゥロ氏はチャベス氏の腹心だったのでしょうか。
2012年、チャベス氏がマドゥロ氏を副大統領に起用しました。チャベス氏は社会主義政策を推し進めた、貧困層の英雄です。そんなチャベス氏と違い、マドゥロ氏にはカリスマ性がありません。それを自覚していたのか、マドゥロ氏は自身の権力を固めるため、盛んにチャベス氏の威光を使いました。
演説中に「私はチャベスだ」と述べたり、チャベス氏の話し方に似せたり。チャベス氏は強い口調でしゃべった後に、相手をにらんで笑うことが特徴です。それを完全にまねていました。ただ現在は、自身の政治基盤を固めたい思惑があるのか、チャベス氏の名前ではなく自身の名前を前面に出すようになりました。チャベス氏の写真を載せたポスターも掲げなくなりました。
「高価なステーキ」動画で批判
――マドゥロ氏の妻も大物のようですね。
シリア・フローレス氏といい、マドゥロ氏に、あれこれ命じているという話もあります。1992年にチャベス氏がクーデター未遂を起こして投獄されていた時に、彼の弁護士を務めていました。マドゥロ氏とフローレス氏はその時から知り合いだったのですが、チャベス氏をマドゥロ氏に紹介したのはフローレス氏と言われています。
フローレス氏も政治家となり、マドゥロ氏の後任の国会議長にフローレス氏が就任したこともあります。彼女は自身のおいやめいを政府の要職に就けており、縁故主義がはびこっています。汚職や不正蓄財の指摘も絶えません。彼女のおい2人はアメリカで、麻薬密輸絡みで収監されています。非常に黒い人物です。
――マドゥロ氏自身は、お金に汚いのでしょうか?
チャベス氏と同様に、マドゥロ氏は権力欲こそ強いものの金銭欲はそれほどでもないと思います。だけど昨年、国民が経済危機で食料品の価格高騰や物不足に苦しんでいるなか、マドゥロ氏夫妻が外国で高価なステーキを食べる動画が広がりました。この時の国民の不満は大きかったです。フローレス氏を含む他の女性政治家たちも、国民が苦しんでいるなか、キラキラした装飾を身につける姿が批判されています。
「情熱的なカリスマ」グアイド氏
――一方のグアイド氏については…