埼玉県熊谷市で10年前、男児がひき逃げされた未解決事件をめぐり、県警が証拠品だった男児の遺品の腕時計を紛失した問題で、担当の元男性警部補(60)が2015年、紛失に気づいた後、男児の母親から証拠品リストの文書を回収して破棄し、腕時計の記載がない文書を作った疑いのあることが、捜査関係者への取材でわかった。県警は元警部補に公文書毀棄(きき)などの疑いがあるとして捜査している。
捜査関係者によると、文書は、証拠品の任意提出を受けた際などに作る証拠品のリスト「押収品目録交付書」で、提出者に交付する。腕時計は、死亡した小関孝徳さん(当時10)が10歳の誕生日に母親から贈られたもので、事件当日に着用していた。県警は、証拠品の一つとして腕時計が記された交付書を母親に渡していた。
昨年10月、母親と捜査員との会話がきっかけで腕時計の紛失が発覚。県警が調べたところ、腕時計について記載した交付書を、交通捜査課の元警部補=定年退職=が母親から回収し、破棄した疑いが浮上。母親には、腕時計の記載がない新たな交付書が渡されており、15年9月ごろ、作り直した疑いがあるという。
県警は母親に経緯を説明。母親は朝日新聞の取材に「交付書の破棄は腕時計の紛失を隠すためだったのではないかと思え、ショック。ひき逃げ事件の捜査も適切に行われているのか不安。犯人逮捕に全力で動いてもらいたい」と話した。
事件は09年9月30日夜に発生。習い事から自転車で帰宅中の小関さんが熊谷市内の市道上に倒れているのが見つかり、死亡が確認された。容疑者逮捕に至らないまま16年に道交法違反(ひき逃げ)の時効が成立。自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)も今年9月30日に時効が迫っている。(笠原真)