アパラチア山脈の道を西へ西へと走る
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「トランプ王国」熱狂のあと 3年後のラストベルト:1
今晩は、どのバーに入ろうか。
午後も3時を回ると、そんなことばかり考えながらハンドルを握る。私はニューヨーク・マンハッタンをレンタカーで出発し、アパラチア山地を西に進んでいた。見知らぬ街を旅する中で、もっとも地元民に近づけそうな場所。外国人記者の私にとって、それがバーだ。
時速40~50マイルで車を走らせながら、過ぎ去る飲食店の看板や雰囲気に目をこらす。街の観察の一環だ。
金成記者が旅した道のり(第1~4話)
最初に立ち寄った街は、ペンシルベニア州北東部のルザーン郡。2012年の大統領選で民主党オバマが勝ったのに、その4年後に共和党トランプが勝ったことで米国ではちょっとした話題になった地域だ。私は今回が初めての訪問だ。
トランプがひっくり返した郡は、地図に赤色で示されている。全米では下のように広がっている。トランプの勝利はこれらの積み重ねの結果でもある。
2008年と12年の二つの大統領選で民主党オバマ氏が勝ったが、16年大統領選は共和党トランプ氏が勝利した「方向転換した郡」の広がり。五大湖周辺の中西部に多いことがわかる=選挙ウェブサイト「バロット・ペディア」から
こうして全米規模で眺めると、五大湖周辺に広がる中西部(ミッドウェスト)に多いことがわかる。かつて製鉄業や製造業などの基幹産業で繁栄したラストベルト(さび付いた工業地帯)と呼ばれる地帯にも目立つ。
今回立ち寄ったルザーン郡のひっくり返り具合は「24ポイント」と、なかなか大きい。トランプ誕生のカギを探るには、よい場所と言えるだろう。
(※トランプは同郡で、2012年大統領選の共和党候補ロムニーより「11ポイント」多く支持を集め、逆にヒラリーはオバマより「13ポイント」少なくしか支持を得られなかった。この合計で「24ポイント」と算出されている)
「デプロラブル」今も掲げ
山あいの産炭地、ペンシルベニア州ルザーン郡の街並み=2018年12月26日、金成隆一撮影
「デプロラブル(嘆かわしい存在)であることを誇りにしている」。山あいの産炭地を歩いていると民家の窓に聞き覚えのある言葉を見つけた。2016年の大統領選で、民主党ヒラリー・クリントン氏がトランプ支持者のことを表現して使った言葉だ=2018年12月26日、ペンシルベニア州ルザーン郡、金成隆一撮影
ルザーン郡は、山あいの産炭地。高速道を走っていると街並みが見えないので、下道を進む。傾斜のある住宅地を撮影しながら歩いていると、民家の窓に聞き覚えのある言葉を見つけた。
「デプロラブルであることを誇りにしている」
大統領選の投開票日が1カ月半後に迫る中、激戦地ミシガン州でのトランプ氏の集会会場で売られていたTシャツ。「みじめなトランプ支持者であることを誇りに思う」とのメッセージが記されていた=2016年9月30日、ミシガン州、金成隆一撮影
大統領選の投開票日が1カ月半後に迫る中、「私はみじめ」とのメッセージが入ったTシャツを着てトランプ集会に参加していた支持者の男性=2016年9月30日、ミシガン州、金成隆一撮影
大統領選の投開票日が1カ月半後に迫る中、トランプ集会の会場で、「私はみじめ」とTシャツの背中に手書きしていた支持者の女性。「私のメッセージも撮影しなさい!」と記者に背中を向けた=2016年9月30日、ミシガン州、金成隆一撮影
デプロラブルとは、「嘆かわしい、惨めな(人々)」という意味の英単語。あの選挙戦で、民主党ヒラリー・クリントンがトランプ支持者のことを表現して使った言葉で、トランプ支持者を見下した言葉として怒りに火を付けてしまった。この言葉は、トランプ支持者が結束を固める合言葉のような役割を果たし、Tシャツや野球帽、バッジなど、あらゆる「トランプ応援グッズ」に刷られた。彼女は後に後悔を口にしたが遅かった。
トランプの就任から間もなく2年になろうという今、まだ見かけるとは。この地域での「反エリート」「反エスタブリッシュメント」の風潮、トランプ支持の根強さをうかがわせる。
アメリカ大統領選挙で巻き起こった「トランプ旋風」の実態を取材しつづけてきた金成隆一記者が、ふたたびラストベルト(さび付いた工業地帯)を集中的に取材しました。全6回、有料会員限定です。
街で出会った中年の白人女性が…