東京・霞が関の高層ビル。
地下1階にある飲食店街で、南雅和さん(50)はベトナムレストランを営む。フォーやカレーが評判の店は平日の昼、サラリーマンで満杯だ。
夏になると、南さんにはよみがえる記憶があった。命の恩人のことだ。思いを募らせ、「SHONANMARU」という名前をインターネットで検索し、図書館で調べた。店に来る客とも話題にした。「力になりましょう」と言ってくれる人もいた。
「窓」記事一覧
南さんの母国での名は、ジャン・タイ・トゥアン・ビン。ベトナム戦争の後、親米の南ベトナム政府の役人だった父親が逮捕され、出国を決意した。
1983年8月、長さ14メートル、幅3メートルの小さな木造船に、老若男女100人余りが乗り込み、沖へ、沖へとめざした。船内には足をのばす隙間もなく、燃料は3日で底をついた。食料もなくなり、他人の尿を飲んで飢えをしのいだ。
遠くに船影が見えたのは、漂流…