後ろに江の島が見える鎌倉市の海岸を、七里ガ浜高の部員が2人一組で走る。砂浜に伏せた状態から、10メートルほど先に挿した1本の棒をめがけてダッシュ。棒を取った方が勝ちという、「ビーチフラッグス」だ。
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一見楽しそうだが、走り終えると座り込んでしまう部員も。この日初めて体験した長田泰之介君(1年)は「先輩に聞いて楽しみにしていたけど、想像以上に足全体がきつくて驚いた」。
通称「浜ラン」は、代々受け継がれてきた練習。下半身や、普段使わない筋肉を鍛えるのが目的だ。学校横の坂を駆け上がるメニューもあるが、「踏みしめにくい浜ランの方が断然つらい」と、主将の伊藤靖起君(3年)。その分、成果は大きく、直球狙いのときに変化球が来ても、下半身を残したまま打つことで安打にできる確率が上がったと感じている。
「投球でも球速が上がった。夏は、浜ランの成果を存分に出したい」
海も山もある神奈川県。山を駆け上がる部員たちもいる。
川崎北高では、年末の一日、箱根駅伝の5区のコースにあわせて、小田原城から芦ノ湖までの20キロ強を走っている。
ゴールには何が待っているのか、主将の長沢来輝(らいき)君(3年)に聞くと、「達成感です」。
同じポジション同士や仲の良い部員同士など4人ずつのグループで走るため、助け合いの大切さも身にしみる。昨年は雪が降っていたこともあり、足がつったり、おなかが痛くなったりしたメンバーもいたが、励まし合って進んだという。
春の県大会では、敗れたものの、延長十一回を戦い抜きながら、「箱根とどっちがつらいか」と考えた。「箱根ラン」を走り抜いた思いを支えに、夏も試合に臨む。
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他のスポーツに練習のヒントを求める学校もある。
昨年のインターハイで団体3位になり、大相撲力士が多数輩出する相撲部を持つ向の岡工業高。冬の間、野球部員たちは相撲部員から「しこふみ」を習う。
片足を上げ、回しながら踏み下ろす。相撲部員から「腰は低く」「背中はまっすぐに」と指導を受け、20回を3セット。足全体が震えるほどだが、筋力強化とともに股関節が柔らかくなり、下半身が安定するという。
当初、「野球部に入ったのに相撲?」と思った主将の寺崎修矢君(3年)。でも春になると、捕球や送球がグッと楽になっている自分に気づいた。「動作の途中でも、自然に低い姿勢が取れ、動きもスムーズになった」。選手9人で臨む大会だが、3年間の全てを注ぎ、相撲部にもよい報告がしたいという。
横浜緑ケ丘高では、幼稚園から空手を習っていたマネジャーの近藤桜さん(3年)が空手の形を指導し、下半身の強化に励む。
ノッカーを務めたとき、「腰が据わっていて、下半身の力を上半身に伝えるのが部内の誰よりうまい」と苅田一典監督が着目。足を広げて腰を下ろし、上体をひねって腕を出す「突き」の動きを、部員に教えることになった。
中軸を打つ主将の藤井康生君(3年)は、練習するうち、打撃のときに太ももの内側を使うイメージを得たという。近藤さんは、「普通のマネの仕事に加え、新たな役割が果たせてうれしい。夏の大会で成果が出てくれたら」と願う。(木下こゆる)