野球をしたいのに、部員はわずか1人――。野球熱が高い石川県でも、そんなケースが現実になっている。今年の石川大会には、辰巳丘、向陽、宝達、穴水が4校で連合チームをつくって出場する。選手たちは何を思っているのだろうか。
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開幕が約1カ月後に迫った6月16日午前。金沢市の辰巳丘のグラウンドに、色とりどりのユニホームの選手10人が集まった。4校連合チームが松任を迎えた練習試合。「ナイスバッティング」「ここ勝負やぞ」。学校の枠をこえて声が飛び交った。
平日は、それぞれの学校で練習している。
向陽の選手は中村広勢君(2年)ただ1人。キャッチボールの相手は高橋亮部長だ。穴水は選手5人に対し、マネジャーが4人いる。宝達の選手も2年生3人にとどまる。時には合同練習をするが、総勢12人の選手に休みがあると、指導者の方が多くなることも。「マンツーマン以上の指導が受けられますよ」と辰巳丘の島崎大志部長は笑う。
週末は集まって練習試合を重ねる。場所は設備が整っていて、相手も来やすい辰巳丘。だが、穴水からは往復約200キロ、3時間かかる。
結成は昨年7月末、石川大会閉幕後だった。2年連続で連合チームを経験することになった辰巳丘の北川拓甫(たくほ)君(3年)は「どんなチームになるんやろ」とワクワクした。
当然、「初めまして」から始まった。普段満足に練習出来ない4校だから、連合でも苦労は多かった。
結成当初の練習試合では30点差以上つけられて負けたことも。辰巳丘のマネジャー石田唯さん(同)は「相手の攻撃がいつも2巡目にいくから、スコアをつけていても今が何回なのか分からなくなる。手も足も出ず、炎天下、ずっと守り続けて休めない選手を見ると、心が折れそうになりました」と振り返る。「これ以上負けようがないところからのスタートでした」と辰巳丘の坂本侑也君(同)。そこから少しずつ、結束を強めていった。
今年4月には羽咋との練習試合で、結成以来初の勝利を挙げた。序盤に最大4点をリードされる展開だったが、あきらめなかった。四死球や失策を見逃さずに1点ずつ返し、8―5の勝利。喜びにわく仲間を見ながら、辰巳丘の久津礼(くづれ)択海君(同)は「勝つってこんな感じだった。また勝ちたいな」と思ったという。
連合チームによる大会出場は、1997年から全国的に認められるようになった。県内ではその5年後、町野の2、3年生と能登青翔の1年生が「町野」として出場したのが最初。昨夏の第100回記念大会では、出場46チーム中、翠星と加賀、辰巳丘と向陽と内灘の2チームが連合で参加。少人数の学校が大会に出る方法として定着してきた。
今年、4校を指揮する辰巳丘の木之下崇監督は「このチームは全員がレギュラー。これまで満足に練習出来なくても気持ちを切らさなかった。試合に出て、野球の楽しさや厳しさを学び、卒業した後も野球の魅力を伝えていって欲しい」。
先月の抽選会。連合チームの主将として、穴水の久保由伸君(同)が壇上に上がった。くじを引いた後、客席を見ると、穴水の花園修兵部長が「開幕戦やぞ。開幕」と必死の口パクで伝えていた。久保君は思わず、笑顔になった。
久保君は4校について「思ったことを言い合える、本物のチームになってきた」と語った。課題は、勝ちにこだわることだ。「大差で負けたときに感じた、アウトを一つ取る難しさを思い返し、一つ一つのアウトを確実に積み上げて、勝ちたい」。12日、石川高専との開幕試合に臨む。