星稜高(石川)グラウンドのバックネット裏に、松井秀喜さん(元ヤンキース)もダッシュして足腰を鍛えたという坂道がある。
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今季初の対外試合があった9日。その途中で第2試合を観戦していたら、エースの奥川恭伸が坂道ダッシュを始めた。「走り方がよくなってきたね」。隣の山下智茂・元監督が、その背中を追いながら言った。「かかとを見てごらん。奥川の成長ぶりが分かるよ」
ダッシュで駆け上がった後、坂道を歩いて下る時だった。「かかとを地面につけずに歩いてるでしょ。つま先立ちで戻るようになった。少しでも自分にプラスになることがあれば、それをコツコツと続ける。あのあたりの姿勢が、一番成長したんじゃないか」
松井さんをはじめ、多くの選手を育成した山下さんの評価である。
変化のきっかけは昨秋だという。U18アジア選手権の日本代表に2年生で1人だけ選ばれた。「根尾(昂=大阪桐蔭→中日)さんは何をするのも野球に結びつけて考えていた」と奥川は報告してきた。準備体操からクールダウン、さらには食事まで、すべて自分のプラスにする工夫をしていたというのだ。変化球の投げ方も教わったそうだが、「意識の高さに触れた経験が何より大きい」と山下さんは言う。
昨秋の公式戦は60回強を投げて自責点わずか4。今春の選抜大会(23日開幕)出場につなげた。意識の高いオフを過ごし、9日の初対外試合は直球とチェンジアップの2球種だけで3回を2安打1失点に抑えた。「いくつかミスがあった。制球力をもっと上げていかないと」と反省を口にすると、2試合目の間は同じ2年生の左腕・寺沢孝多とトレーニングに励んだ。
12日までは学年末試験中だという。「勉強はしっかりやっとるか」と山下さんに言われると、奥川は「はい。大丈夫です」と笑顔で答えた。「成績もいい。松井と一緒でしっかりしとる」と山下さん。
松井さんは「努力できることが才能である」という言葉を大切にしていた。大先輩のような資質を持っているなら、どこまで成長するか楽しみな右腕である。(編集委員・安藤嘉浩)