最初から望んだポジションではないかもしれない。たとえ花形と言われる投手であっても。だが、涙を流して悔しがるほど、情熱を注ぐようになっていた。
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「投手はやりたくない」
岩手県・花北青雲の佐藤慶太選手(3年)の言葉に柳谷和人監督は面食らった。「普通みんなやりたがるもんじゃないの?」。投手に向いていると監督が説得しても「いやです」。あのときの佐藤選手はかたくなだった。
外野として入部し、投手経験ゼロ。1年生の秋、練習でバッティングピッチャーをすることになった。180センチの長身で、手足が長くフォームもいい。そんな佐藤選手を見た柳谷監督が投手としての素質を見抜いた。
ただ、佐藤選手には荷が重かった。「打たれないように投げるには……」「打たれたらその後は……」。不安でいっぱいだった。
「(投手の)練習はやれと言われてしぶしぶやっていた」。しかし、まもなくして練習試合に登板するようになると、そんな考え方は変わっていった。走者が出たら牽制(けんせい)し、バントの処理もする。今の自分の体力ではこなせない。でも、やるからにはちゃんとやりたい。いつのまにか、本気で投手をやりたいと思うようになっていた。投手として体力をつけるためのトレーニングを始めた。
3年生の春、県大会で継投で使うと監督に宣告された。「ようやくきたか」と胸が高鳴ったが、この日はエースの調子がよく、結局出番はなかった。チームは11―4で勝利した。
「投げるつもりだっただろ」。試合後、選手控室でストレッチをしていると、仲間に声をかけられた。使ってもらえると思ったのに、やはり頼りになるのはエースだけなのか。そんな心境をぽつり、ぽつり、と話すうちに、いつの間にか涙がこぼれていた。
仲間たちは活躍しているのに、自分はチームから信頼されていないのでは――。悔しさがこみ上げてきた。「自分もマウンドに立ちたい」。毎試合、自分が投げるんだと自らに言い聞かせた。
次の試合、開始前に監督に呼ばれた。「今日行くぞ」。昨秋の県大会3位の専大北上相手に六回で継投した。3分の2回だけの登板だったが、相手から三振も奪い一度落ち込んだチームを再び活気づかせた。
毎日動けなくなるほど練習する。走り込んで下半身を鍛え、投球練習では納得のいくフォームを追求する。監督もそんな佐藤選手の姿に「成長したな」と目を細める。「僕はこの夏、完全燃焼したいんです」。どんな結果になっても、開き直れるくらいに。(御船紗子)