また一つ、新たな歴史が刻まれた。高校野球山形大会は14日、4球場で2回戦8試合があり、東桜学館が夏の大会での初勝利を挙げた。シード校の鶴岡東や日大山形は3回戦進出。山形工は第8シードの長井を退けて16強入りした。
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(新庄北6-4置賜農)
「入学した頃は、自分のこんな姿、想像できなかったな」
八回表、適時打を放った置賜農7番打者の鈴木椋太選手(3年)は、一塁ベース上で控えめに拳を突き上げ、照れ笑いを浮かべた。
めったに適時打を打たないから、どう気持ちを表現していいのかわからない。でも、スタンドから聞こえる歓声が誇らしかった。
いとこに憧れて、中学から野球を始めた。でも試合で活躍した記憶はほとんどない。中学卒業を間近に控えた頃、友達と遊んでいる時に右の太ももに大けがを負った。
置賜農に入学した後は、松葉杖が欠かせなかった。初めに診察した医師からは「治るかわからない。運動は禁止」と言われたが、「球拾いでもいいから」と野球部に入部した。
そんな息子の姿を見ていた母・優子さんは、セカンドオピニオンを頼める医師を探し、県内の病院に一つ一つ電話をかけた。ようやく見つけた医師の診察結果は「動かせば治る。リハビリを始めましょう」。
高1の夏には、松葉杖がなくても歩けるようになった。そして冬、練習に参加できるようになった。
だが、練習ではすぐにバテてしまうし、試合ではエラーばかり。遅れを取り戻そうと、苦手の守備は捕れるまで何回もノックを打ってもらった。練習後には自宅の駐車場の素振りや、筋トレも欠かさなかった。
この日の試合では、一塁の守備で失点につながるミスがあった。「自分のせいで負けるのは嫌だ」と打席に立った八回表2死一、二塁の好機。ふわりと上がった打球は中前に落ち、優子さんが「初めて見た」と喜ぶ適時打になった。
チームは最後まで粘りを見せたが敗れた。それでも「諦めずに続けて良かった」と語った。チームの仲間、先輩、先生、そして母――。照れくさいけど、みんなにちゃんと「ありがとう」と伝えようと思う。(西田理人)