ワールドカップ(W杯)ドイツ大会の優勝候補の一角、イタリアのサッカー界が不正疑惑に揺れている。疑惑の中心は1部リーグ(セリエA)の王者ユベントス。本拠地を置くトリノでは、落胆と動揺が広がる。懲罰を決める裁定はW杯大会終盤に見込まれ、イタリア代表チームの士気低下も懸念される。いったい何が起きていたのか。【トリノで海保真人】
トリノに拠点のある全国紙「スタンパ」のマラグーティ運動部長は今回の不正疑惑を「伊サッカー界で過去100年間で最大かつ最悪のスキャンダル」と評する。
◇セリエA・王者ユベントス…W杯の伊代表、士気低下も
捜査はユベントスの前ゼネラルマネジャー、ルチャーノ・モッジ氏(68)を中心に進む。同氏は94年にゼネラルマネジャーに就任、今季で任期中7度目のセリエA優勝をもたらした。
ところが裏での働きぶりはとんでもなかったようだ。「常勝軍団」を目指して審判員協会を抱き込み、有利な判定を得る人脈「モッジ・システム」を確立。他4チームの幹部も加わり、八百長を画策していたとされる。
検察当局の電話盗聴記録によると、モッジ氏はユベントスの試合で再三ひいきの主審と副審を指名。04年11月6日、ユベントスが1対2で敗れた試合後は、判定に怒り主審と副審を罵倒(ばとう)し更衣室に閉じ込めた。
テレビにも圧力をかけた。サッカー・ニュース番組の司会者に、判定が物議をかもした場面について「カットしろ。リプレーするな。さもなくば『審判が正しい』と言え」などと迫った。
ユベントス以外の試合でもモッジ氏は、次の対戦相手の有力選手がユベントス戦に出られないよう、審判員にわざと警告や退場処分を出させていたとの疑惑もある。
さらに息子がトップのエージェント会社が絡んだ不正な代表選手選出や移籍にも関与したとされる。W杯イタリア代表チームのリッピ監督の息子も、この会社の幹部として事情聴取を受けた。伊サッカー協会の正副会長、審判員協会幹部、大勢の審判員が辞任した。
弁護人によると、モッジ氏はベルルスコーニ前首相が実質オーナーを務めるライバルチーム・ACミランがテレビ界を牛耳り強大化したのに対抗し、審判員を抱き込む手法に出たという。
大手スポーツ紙「ガゼッタ・デロ・スポルト」のクリノ・トリノ支局長は「背景にはサッカーが巨額な金を生むビジネスになった弊害がある」と嘆く。
ユベントスは創立109年の古豪で、セリエAで最多29回の優勝を誇り、人気、実力とも世界でトップクラス。公式ファンクラブによると、ファンの数は世界中で約1400万人いる。W杯ではイタリア代表にデルピエロら5人を送り出し、フランス、ブラジルなど5カ国の代表に7人を抱える。
イタリアのスポーツ裁判所による裁定は、W杯が佳境に入る7月1~5日に下され、ユベントスのほかフィオレンティナ、ラツィオの2部リーグ(セリエB)降格が有力。代表選手らへの影響は大きく「(降格すれば)ユベントスは向こう3年間のテレビ放映権料2億6800万ユーロ(約386億円)を失いかねず、年俸10億円台のスター選手を次々と放出せざるを得なくなる」(マラグーティ運動部長)という。
毎日新聞 2006年6月6日 12時57分