キヤノンは10日、街角や工場の監視などに使うネットワークカメラの世界最大手、スウェーデンのアクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収すると発表した。同カメラはスーパーの売れ筋分析や高齢者の見守りなどにも用途が広がり2018年には現状の倍の約3兆円になる。パナソニックや独ボッシュなど大手が参入するなか、キヤノンは買収で一気に首位に立ち事業の多角化を加速する。
ネットワークカメラはカメラをインターネットなどにつないで遠隔地からでも街頭や工場内などを監視できる。カメラの映像から小売店の客の流れを解析して売り場の改善につなげたり、自宅の高齢者の見守りに使ったりすることもできる。ネットワークカメラの市場で世界で約4600億円。周辺システムまで広げると13年で1兆6千億円規模、18年には3兆円近くになるという。
アクシスは1984年の設立で、ネットワークカメラを世界で初めて実用化した。現在世界シェア約2割で首位。14年12月期の売上高は54億5千万クローナ(約770億円)、純利益は5億3900万クローナだった。
3月初旬からTOB(株式公開買い付け)を実施する。キヤノンのM&A(合併・買収)で最大となる。スウェーデンの証券監督当局に買い付けを承認され次第、1株当たり340クローナ(約4800円)でTOBを始め完全子会社化を目指す。アクシスの取締役会と創業者ら上位株主はTOBに賛同している。買収後もアクシスのブランドは残す。
キヤノンは自社のデジタルカメラ関連の技術にアクシスの映像処理の技術を組み合わせて、高画質で使いやすい製品を開発する。キヤノンの同事業の売上高はまだ年20億円程度のもよう。アクシス買収で売上高は800億円に一気に伸びる。16年12月期には1千億円、純利益で約100億円を稼ぐ事業にする。
キヤノンは複合機やプリンターなどの事務機とデジタルカメラを主力としてきたが、いずれも市場は成熟している。新たな収益源の開拓が急務だった。キヤノンは14年にネットワークカメラ向けのソフト開発会社を買収し事業基盤の拡大に備えていた。買収は約8400億円ある手元資金でまかなう。医療機器などに次ぐ新規事業の柱に育てる。
同社は10年にオランダの商業印刷大手オセを約1千億円で買収した。商業印刷とネットワークカメラの拠点は欧州に置く。日本はカメラとコピー機、米国は医療機器を柱にする。主要市場に近い場所に人員などを集めて、投資などの意思決定を迅速にする。
キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)は10日、「今回の買収は日本、米国、欧州にそれぞれ本社機能を置く世界3極体制を大きく前進させる」と述べた。今後は景気に左右されやすい消費者向け商品よりも「企業向けに軸足を移して安定した利益体質にする」と強調した。