インドが今月、ふたたび金利を据え置いたのは、経済に対する自信を示すものでもインフレ懸念が消失したためでもなかった。むしろ、中央銀行の意図が実体経済に伝わる不透明な「ブラックボックス」ともいうべき金融の伝達プロセスが、なんらかの形で機能しなかったとの認識によるものだった。
インド準備銀行のラジャン総裁。金利を据え置くと発表(7日、ムンバイ)=AP
銀行が今年2回の政策金利の引き下げを消費者と企業にほとんど反映させていないことについて説明を求められたインド準備銀行(中央銀行、RBI)のラジャン総裁は、いつものようにゆったりと構えるのではなく、珍しく激しい調子で反論した。
■資金調達、預金に偏重
同総裁は「銀行は金を遊ばせている。彼らの資金調達の限界コストは低下している。低下していないという認識はばかげている」と直近の政策金利決定会合後に述べた。アナリストらは、銀行の資金調達手段が預金に偏重し、そのため銀行間の借り入れが低水準にとどまっていること、また不良債権比率が高く銀行システムが硬直的になっていることから、インドの金融政策の伝達メカニズムの問題はとりわけ深刻だと指摘する。
インドの調査会社クリシルによると、インドの商業銀行の預金が負債合計に占める割合は78%。米国では50%近くだ。クレディ・スイスは、融資の約11%が問題があるか条件が変更されており、規模のより小さい公的部門の銀行が最も厳しいとした。こうした理由から銀行は動こうとせず、持続的な景気回復が始まる前に新たなリスクを取ることを恐れている。JPモルガンのインド在勤のチーフエコノミスト、サジド・チノイ氏は「過去が未来を決めるケースだ」と語る。
銀行が(金利の引き下げに)動き始めないかぎり、インフレ低下に伴って実質金利が今年上昇するだけに、この問題は、企業や政策立案者、投資家を神経質にさせている。
モディ首相は、投資を活性化させる方法として利下げにも期待しており、政治的な意味合いもある。クリシルによると、好調な時期は20%を超えていた融資の伸びは、3月までの1年間でここ10年間で最も低い9%に落ち込んだ。しかし、すぐに状況が変わるとみる向きはほとんどない。