神奈川県小田原市を走行中だった東京発新大阪行きの東海道新幹線のぞみ225号で30日、男が焼身自殺した。車内では火災が発生、煙を吸った女性が死亡し、26人が重軽傷を負った。煙が充満する車内にいた乗客は「まさか新幹線で火災に巻き込まれるとは」と絶句。事件でダイヤは大きく乱れ、駅で長時間足止めされた人たちは疲れ果てた表情で運行再開を待った。
JR小田原駅に到着し、消防隊員に抱えられる子ども(30日午後)=共同
神奈川県警などによると、午前11時半ごろ、先頭を走る1号車の前から3列目付近に乗っていた男が油のような液体をかぶったり、周囲にまいたりしてライターで火を付けた。液体は容量約10リットルの白いポリタンクに入れられていたという。運転士が消火器などで消し止めたが、男は1号車の先頭付近で焼死した。
県警は現住建造物等放火などの疑いで捜査。男は東京都杉並区、職業不詳、林崎春生容疑者(71)と判明し、近く同容疑者宅を家宅捜索する。国土交通省は30日、新幹線では初の「列車火災事故」と認定、運輸安全委員会が調査を開始した。
死亡した女性は横浜市青葉区の整体師、桑原佳子さん(52)で、1号車に乗車していた。1号車と2号車との間のデッキで心肺停止状態で発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。林崎容疑者が火を放った後、後ろの2号車に向かって逃げる途中で煙を吸い込み、意識を失ったとみられる。地元消防によると、のどにやけどを負うなど乗客ら26人が重軽傷を負った。
県警によると、林崎容疑者は火を付ける直前に1号車最前列にいた60代の女性の乗客に「拾ったからあげる」と千円札を数枚差し出し、女性が「いらない」と話すと、液体をかぶった。「やめなさい」と言う女性に、林崎容疑者は「あなたも逃げなさい」と答えた。女性が逃げながら途中で振り向くと、林崎容疑者が燃えていたという。
現場にはライターと溶けたポリタンクがあった。近くにリュックサックがあったが、遺書は見つかっていないという。
新幹線には乗客約800人がいて、新横浜―小田原間を走行中だった。事件発生を受けて緊急停止。JR東海は午後2時すぎに車両を走行させて乗客を小田原駅まで運び、後続の列車に振り分けるなどした。