働き方の課題や改善点について話し合う会計部門の職員たち=愛知県警提供
正社員の働き方の良くない点として、朝日新聞デジタルのアンケートで最も多くの人が挙げたのが、長時間労働でした。仕事が多すぎる、会社が適切な残業代を支払わない、効率的に仕事をしていない――様々な立場から意見をいただいています。今の働き方をどう見直せばいいのか、新たな取り組みを始めた職場も取材しました。
アンケート「働き方、どう変える?」
■改善へ取り組む愛知県警
仕事と生活の調和を図る「ワーク・ライフ・バランス」に、事件や事故に24時間態勢で対応する警察も取り組んでいます。
愛知県警は昨年度から、「スマートワークプロジェクト」を始めました。主に子育て中の女性を想定した両立支援策は既にいろいろありましたが、誰もが働きやすい環境を整えようという社会の流れの中で、組織全体で働き方を見直す必要があると考えたそうです。
タイプの異なる職場で取り組もうと、名古屋市内で、ある警察署の刑事部門と、別の警察署で遺失物を扱う会計部門の2チーム(計14人)をモデルとして、昨年6月から取り組んできました。
2チームはプロジェクトの目標として、刑事部門が「攻めの捜査で暴力団に恐れられるチーム」、会計部門が「業務の効率化、情報の共有化、円滑なコミュニケーションの実現」を設定。仕事の効率を上げ、残業や休日出勤を減らすための改善策を話し合う会議を毎週開きました。
当初は「ワーク・ライフ・バランスなんて警察でもできるの?」という戸惑いの声もあったそうです。刑事部門では取り組み期間中に暴力団関係の事件が発生。会議が開けない時期もありましたが、集まれるメンバーだけで再開し、「攻めの捜査」のための新しいアイデアも生まれました。「休める時は休む」「当直明けは(終業時間の)正午で帰る」という意識も強まったといいます。
比較的計画的な勤務が可能な会計部門では、ホワイトボードに各自の業務や休みの予定、遺失物の返還予定を書き込むなど情報の共有化を進めました。遺失物の速やかな返還につながったほか、同僚の予定を把握し合うことで休日や退庁時間の管理を徹底。集中して作業したい時は電話や来客対応を他の人に任せられる席も設け、メリハリのある働き方ができるようになったそうです。
プロジェクトを担当する警務課の伊藤由美子・課長補佐は「働き方の見直しという視点で話し合う場を設けたことで、既存の業務の効率化だけではなく、他部門との協力など発展的なアイデアが出てきた」と振り返ります。「時間管理の意識を高め、業務時間はしっかり集中し、終業後の空いた時間は勉強など仕事に生かせるインプットにも充てる。目に見える成果がすぐに出るわけではなく、地道な積み重ねが必要で、決して楽をするための甘い取り組みではない」と実感しているそうです。
県警のコンサルティングを担当するワーク・ライフバランス社の風間正彦さんは「警察組織として24時間365日機能することと、警察官個人がきちんと休息を取ることは分けて考える。仕事や情報を共有して『この人しか分からない』という仕事を減らし、適切な労働時間を守って心身ともに健康でいることが、ひいては県民の安心につながる。そこを十分に理解してもらうことからスタートした」と言います。働き方の見直しはどの組織にも共通することばかりで、警察だから特別と感じることはほとんどなかったそうです。
県警は今年度もプロジェクトを継続。モデル部署を増やし、警察署全体で取り組む「モデル警察署」を設けることも検討しています。(三島あずさ)
■アンケートに寄せられた声は
どうして長時間労働になるのか。不満やもどかしい思いがアンケートに寄せられています。
●「定時退社ができない雰囲気があります。が、頑張って定時5分から10分後ぐらいには帰るようにしています。私が帰った後に『よく帰るなぁ』という声が交わされていそうです。こんなことなら日中だらだらと仕事をしていればいいのかなぁ、もっと仕事を効率化したらどう?と思うのですが、なかなか言えないのが現状です」(岩手県・60代女性)
●「女性です。子どもができるまでは、正社員として働いていました。仕事的にサービス残業の多い職種で、ひどい時には、定時が17時と定められている中、21時まで残業(残業代は30分)ということも少なくありませんでした。周りもしているので、文句があるなら辞めなくては、という雰囲気です。それでも、大人だけの生活であれば無理はききますし、やりがいもあると思えなくもなかったのですが、子どもができて、そうもいかなくなり、改めて、この若く無理ができる期間しか正社員をできないような考え方が定着してしまっているのはどうなんだろう、と思いました」(鹿児島県・40代女性)
●「22時くらいまで毎日働かない社員は意欲がないといわれ、遅くまで働くようプレッシャーをかけられます。お題は正社員の働き方ですが、上記のような働き方は契約社員や他社からの出向扱いの社員にも求められます。長時間労働は正社員だけの問題ではありません」(神奈川県・40代女性)
●「残業をしなければならない無言の圧力、だれかが帰るまで退社しづらい、会社に意見をいうと、問題児としてマークされる。会社のために犠牲になるのが当然、個人より会社を優先するのが当然という、個人を軽く見る文化が強く根付いている。個よりも集団を優先する……敗戦で憲法が変わっても、人、組織の意識は昔からかわっていない、実は人権後進国であると思います」(東京都・50代男性)
●「会社も違法な長時間労働とわかりながら、組織的に巧妙な隠蔽(いんぺい)システムを構築している。実際に支給される給料は法定残業時間内まで。異を唱えることは会社では当然タブーで、居場所をなくす。社会保障と家族の生活を人質に取られている気持ちで働いている」(埼玉県・30代男性)
●「残業が長くなると時間ばかりかかり、業務効率が悪くなります。残業代あり、なし、どちらの職場も経験しましたが、残業代ありだとお金目当てでムダに会社に残り、残業代なしの会社も居心地のいい所だったのでやはり残って仕事してしまいました。今考えると時間のムダにしかならなかったと思います」(神奈川県・30代女性)
●「長時間労働の原因は、リストラクチャーの一環として従業員を減らしたことが大きいと思う。1人で一つの係相当分をこなしていた。無論、25時・26時退社や徹夜が続く。休日も仕事に出ていたため、家庭のことは妻に任せっきりで『母子家庭のよう』とボヤかれたこともあったが、幸い妻は理解をしてくれていて、仕事をこなすことができた。人員が削減され、残った者は多忙を極めることとなり、時にはミスを犯し、満足できない成果に終わってしまう」(青森県・40代男性)
●「非正規ですが、前の係が忙しく上司からは早く帰るように言われていましたが、自分が先に帰っても仕事が終わらないのがわかっていたので社員とともに残って残業していました。疲れがたまり家事ができず家族に迷惑をかけていましたが、やりがいはありましたが、残業時間が年間時間に半年で達し頑張ってやっていても評価されるどころか早く帰れと嫌みを言われました。今の係はやりがいはないけど早く帰れるので体は楽です。うまくいきませんね」(神奈川県・40代女性)
●「嘱託で採用された勤務先は、長時間労働を前提とした仕事量になっている。誰かが休んだり、仕事量が増えたりしても人員の補充や手当てなどは一切無し。残業代も一切無し。有給も無し。正社員も似たようなものだが、正社員は嘱託やパート勤務者を見下しているので、連帯して会社に抗議することもない」(愛知県・50代女性)
■「消費者も変わるべきでは」
「顧客が過剰な要求をしないようにすることも必要では」というメールがありました。ご意見をいただいた、東京都でサービス業の会社に勤める男性(55)に話を聞きました。
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私の勤める会社では、お客さんのために、パソコンで凝ったフォントの提案資料を徹夜で作ります。お客さんの要望に深夜でも応じることがあります。「早く帰れ」と言われても、結局、残業することになります。こうした労働にお客さんから追加のお金が支払われるわけではありません。打ち合わせに呼び出すなら、弁護士のように1時間いくらのタイムチャージを導入すると、コスト意識が出てくると思います。
日本の「おもてなし」は称賛の的です。そのせいか、日本のお客さんの要求水準は高く、過剰とも思えるサービスがあふれています。例えばコンビニで、臭いのある商品とそれ以外を分ける。箱に入ったせんべいも一枚一枚小分けに梱包(こんぽう)する。
仕事で一生懸命お客さんに尽くす一方で、消費者側に立つと、完璧なものを要求するのかもしれません。でも、サービスのために人を動かせば、費用が発生するものです。消費者の意識が変わらないと、長時間労働はなくならないと思います。
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