従業員の満足度に自信はありますか?
働くしあわせを感じるモノサシは、賃金の水準や休みの取り方など、人それぞれ。経営トップは、そんな従業員の会社に対する満足度に、自信を持っているのでしょうか。いつもの経営者50人に、どう感じているかを聞きました。
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〈Yes〉IT関連「ジー・ブーン」社長・後藤稔行さん(48)
社内では、社員が自分の夢を託したニックネームを自分でつけて、呼び合っています。社員それぞれの夢を、会社全体で応援するためです。「居酒屋を将来経営する」「何でもこなせる執事のような人間になる」――そんな夢を応援します。
ニックネームが「ソラ」の女性社員は、「あの大空のような大きな人間になりたい」と命名しました。みんなに「ソラ」と呼ばれると、どんなに忙しくても夢を思いだす。夢の実現に大切なのは、忘れないことですから。
起業する前に働いていた会社では、経営者や株主の夢のために社員は我慢して働き、その労働対価として給料をもらう。そう感じたので、うんざりしていました。自分が転職するときのある面接で「社員の夢は?」と聞いたら、「甘ったれるな」と言われたこともあります。
わたしは間違っていないことを証明したくて、10年前、社員の夢にこだわる会社を起業しました。社名は、本当の「自分」を手に入れようとの思いをこめてつけたものです。ちなみに、わたしの夢は「ドリーム企業文化を創る」です。
夢を実現する可能性は、実力をたくわえればたくわえるほど高くなる。会社を強くして事業を拡大すれば、仕事がいろいろ増える。社員には、自分の所属部署の仕事だけでなく、「社会人式インターン」としていろいろな仕事をしてもらう。経験を積めば積むほど実力がつく。事業拡大という会社の夢と、社員の夢は、しっかり交わるんです。(本社・東京都千代田区、社員約50人)
〈Yes〉 決算期末には、社員全員で1泊2日で経営方針や行動計画をたてている。決算数字や行動計画の進み具合も、毎月、全員で確認している。役員報酬の公開は絶対に必要。うそやごまかしのない経営者の姿勢があるから、社員と信頼関係ができる。(50代・製造業)
〈Yes〉 ここ20年近く、自己都合で退社する社員がいない。定着率がいい。社員が満足してくれているから、いつも笑顔があるのだろう。会社を訪問してくれたお客さまからは、「社風がいいね」とお褒めの言葉をいただいている。(50代・サービス業)
〈Yes〉 賃金は、業界平均より少しではあるが、常に高くしている。スタッフは、子育て中のお母さんが中心。会社全体で、お互いに境遇を理解しあえる関係をつくるとともに、子どもの急な発熱や学校行事にも対応できるようにしている。(40代・サービス業)
〈Yes〉 社員は100%女性。本人の希望を聞いて、結婚や出産後まで考えた長期的なキャリアプランを立てている。育児休暇など制度だけ整えても、復帰したら浦島太郎では意味がない。プロとしての仕事のステップアップも大切にしたい。(50代・サービス業)
〈No〉 とび「セリエコーポレーション」社長・岡本昌宏さん(41)
鳶(とび)の未来は明るいんです。新しいビルは建たなくても、改修の仕事は永遠にありますから。一生食べていける仕事です。10代、20代の若い職人が減ってライバルは少ない。10年後、20年後は、引く手あまたに決まっています。
でも、建設現場ではたらく仕事は、肉体的にやはり厳しいものです。夏は暑いし、冬は寒い。梅雨どきはカッパを着て仕事をする。鳶職人をハローワークで募集していますが、来てくれる人はいません。
私は19歳でこの世界に入り、30歳で独立しました。いま、少年院などをまわって、「鳶で稼ごうよ」と呼びかけています。「君たちも独立して社長になれるよ」と話しています。足を踏み外してしまった少年少女には、再び犯罪を起こしてほしくありませんし。
なかには、無遅刻無欠席で、「将来は社長みたいに独立して、少年院から雇い入れる」と語る笑顔の子がいます。彼には身よりがないのですが、頼もしいかぎり。数年すれば独立する子も2~3人います。でも、いったん会社に入っても、続かない子が多い。若い子に、いきなり鳶の仕事をさせるのはやはり酷なのでしょうか。なので、社員の満足度は足りていないと感じています。
でも、やめたら行き場がなくなる子どもたちがいる。夏にたちあげるNPOでは、ほかの仕事をつくって働いてもらおうと思っています。首都圏の経営者のみなさんにも、協力をいただいています。(本社・神奈川県横須賀市、従業員15人)
〈No〉 「ノミュニケーション」の効果に限界を感じる。飲み会があっても出てこない社員がいるなど、他人との協調性に欠ける社員が増えた。社員の満足度を高めるにはコストがかかる。でも、取引先の満足度は、品質、納期、そして低いコスト。難しい。(40代・製造業)
〈No〉 仕事は「上」から指示されるより、「自分」で考えて実行した方が、楽しいもの。問題は、いかにして「自分」で動く社員さんを増やしていくかだと思う。言うは易(やす)く、行うは難し。まだまだ道半ば、いや、道まだスタート地点だ。(40代・サービス業)
〈No〉 個人として会社に満足している社員はいると思うが、まだまだ。社員満足度は、社内を幅広く改善しないと高まらない。プロジェクトを立ち上げ、改善を図っている。満足度を上げれば、生産性も向上するし、取引先も満足するだろうから。(50代・製造業)
〈No〉 ホテルは年中無休、24時間営業の業種。待機児童問題も深刻で、女性が働きに出にくく、人材確保に苦戦している。労働環境が悪くなっているのに、思うように改善できていない。社員の不満が募っている。なんとかしなくては。(50代・サービス業)
〈No〉 賃金は地域の平均以上をめざすとともに、労働組合とさまざまな改善に向けて提案しあっている。でも、すべての従業員が満足しているかといえば、違うと思う。東日本大震災からの復興をすすめる地域のためにも、いい労使関係を築きたい。(50代・サービス業)
〈どちらとも言えない〉 受注生産で製品の種類やつくる量が変わる「変種変量生産」のため、従業員に負荷をかけることが多い。従業員に温かい会社と思うが、経営環境の先行きは不透明。確固とした力強い経営もしづらいため、満足度に自信があると答えられない。(50代・製造業)
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ご協力いただいた50社(順不同)【北海道】武部建設、岩見沢液化ガス【東北】高田自動車学校、八木澤商店、オクト、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、東穀、ヴィ・クルー、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本プラスター、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、プレジール、日本橋梁工業、コビーアンドアソシエイツ、吉村、石坂産業、アイシービー、喜久屋、セリエコーポレーション、アトム精密、エイアンドピープル、ミナロ、アフロディーテ、ウェルネスダイニング、一友ビルドテック、ユウマペイント、サンパワー、ジー・ブーン【中部】給材、ネコリパブリック、キタガワ工芸【近畿】ロマンライフ、山田製作所、中野BC、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、成田塗装、日本グリーンパックス【中国、九州】エブリイ、ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、ツシマ
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◆編集委員の中島隆が担当しました。次回(第15回)の「われら中小企業」は、8月22日に掲載の予定です。