被災者の生活は短期間で大きく変わっていく。7月に入居が始まった益城町の飯野仮設団地では自治会もでき、10月に初めてみんなで親睦のバーベキュー大会を開いた=10月2日、熊本県益城町、平井良和撮影
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「熊本地震」という言葉と一緒にネットで検索された語句を分析することで、人々の関心の変化を見ることができる。この「第2ワード」の傾向をより詳細に分析すると、熊本と全国とで、求める情報の質が異なっていく様子がはっきりと浮かんだ。
検索データが語る熊本地震6カ月
ヤフーの検索ワード分析。今年4月14日の地震発生から半年間に検索された主な「第2ワード」について、全国からの検索数と、熊本県内からの検索数をそれぞれ出し、分布図を作った。
横軸は、全国からの検索の割合。右に行くほど検索数が多い語句になる。縦軸は、全体の検索数のうち、熊本県からの検索の割合。左上ほど、全国的には関心が低くても、熊本県内で頻繁に調べられていた語句だ。分布図は月ごとに作成した。
■避難所フェーズは「余震」「温泉」
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(4月)
熊本の人たちが検索した語句に注目すると、時間の経過とともに、被災者が次々にぶつかった課題が分かる。
4月中、熊本県では余震が続いた。震度1以上は1千回超。「寝ている人のほとんどが目を覚ます」規模とされる震度4以上の揺れでも170回あった。こうした中で検索される割合が高かった語句は、【余震 いつまで】【いつまで続く】などだった。
また、【温泉】【水道】【断水】も多かった。4月16日未明にあった最大震度7の本震の後には県内で最大39万戸が断水。県浴場組合や自衛隊は直後から温泉を無料で開放した。多くの被災者が日々の生活に必要な情報を求めたと見られる。
熊本市出身で、地震直後から現地入りして避難所運営の支援などを行ったNPO法人カタリバの今村亮さん(33)は、「4月は避難所・車中泊フェーズで、11万人が避難暮らしをしていた。夜に家に帰るのが怖いと不安を感じる人や、生活情報を求める人が多かった現場の感覚と重なる」と話す。
■「避難所から日常」の5月
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(5月)
5月に入ると、熊本での震度1以上の余震は4月の半分になり、震度4以上の余震は8回と前月から大幅に減った。【今後 予言】【今後 予想】【いつまで】などの検索割合は相変わらず高かったが、一方で急浮上したのが【罹災証明】【支援金】【補助金】などだ。
罹災(りさい)証明書は、家屋や事業所の被害について市町村が調査し、「全壊」「半壊」「一部損壊」などに区分して発行するもの。生活再建支援金や義援金の受給のほか、仮設住宅の入居にも必要となるが、庁舎が被災した自治体もあって、発行は滞った。
今村さんは、「5、6月は、避難所暮らしから日常生活を徐々に取り戻すフェーズ。1日並んでも証明書が発行されないなど、罹災証明の話題で持ちきりだった」という。
■被災地の関心はより具体的に
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(6月)
6月に入ると、全国でも、熊本でも、地震関連の検索数は落ち着いてくる。その半面、熊本では検索ワードがより具体化、細分化していた。
特に割合が高かったのは、【応急修理】【解体費用】といった自宅に関する語句や、【義援金 二次配分】【地震保険】など。【罹災証明】も高水準を保っている。
「余震への不安が大きかった4、5月から、6月は生活を取り戻すフェーズ。そして、7、8月は仮設住宅への転居のフェーズだった」と今村さんは振り返る。
7月に熊本で検索されたのは、【半壊 義援金】【医療費免除】【見舞金】。8月は【固定資産税】。固定資産税の減免措置については被災地でも関心が高かった。
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(7月)
■全国の関心との差
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(8月)
一方で、全国の人たちの関心はどうだったのか。
熊本で余震が頻発していた4~5月にかけて、全国的に検索数が多かった語句は、【募金】【ボランティア】などだ。
京都大学防災研究所の矢守克也教授は、「『救援される被災地』と『救援すべき自分たち』という枠組みを組み立てることで、被災地外の人たちが落ち着くという心理がある。これらの語句はその心理作用を表している」と指摘する。
また、4~5月に全国的に検索割合が多い【死者】【被害】【被害状況】などについては、「地震の客観的な規模を知ることで、『何かよく分からない大災害』という不安を取り除きたい、という欲求から検索されている」と説明する。
■消費される言葉
「熊本地震+○○」の検索語句の分布(9月)
7月以降、全国では熊本地震に関する検索はほとんどなくなっていたが、そんな中で特徴的だったのは、7月に一時的に検索数が増えた【ライオン】。地震直後に「ライオンが放たれた」と画像付きでツイッターにデマを流した男(20)が熊本県警に逮捕されたことが7月20日に報道され、全国的に関心が高まった。
しかし、熊本での検索割合は少なく、検索数が同等の【罹災証明】の4分の1程度しかなかった。
今村さんは、「ライオンに関しては、ツイッターなどでこうしたニュースを『ネタ』として楽しむ全国の層が、ネタ的に消費をした」と見る。生活再建のための情報収集をネット上でしていた被災者とは、大きく意識が異なっていっている。
全国的な検索数に対して、被災地での割合が低い語句として「復興」も挙げられる。「被災地で日常生活に困っている人は、『復興』という言葉は実は使わない。被災地が取り残されるという危機感を持つ『意識が高い』人が使う」
今村亮さん(カタリバ提供)
今村さんは、「全国と被災地で関心が異なってくるのは仕方がないことで、問題だとは思わない」と言う。「被災地が考えるべきは、『ライオン』や『復興』のように、現実生活と離れて消費されてしまうようなワードではなく、もっとポジティブに全国で受け入れられるような発信を、どう行っていくかだと思う」(後藤遼太、原田朱美)