インタビューにこたえる蒲島郁夫熊本県知事=19日、熊本市中央区の熊本県庁、長沢幹城撮影
熊本地震発生からの検索データの推移を見ると、半年間で多くの言葉が浮かんでは消えている。現職の熊本県知事であり、データから政治を読み解く政治学者でもある蒲島郁夫氏に、インターネット検索大手ヤフーの検索データを分析してもらった。
特集:検索データが語る熊本地震6カ月
■「潜在的な関心は今も高い」
「まず、熊本と全国の違いが明快ですよね」
蒲島知事が指したのは、【熊本地震】と検索された数の推移を示したグラフ。全国からの検索数は、地震1週間後から急落している。
「最初の2週間くらいは、全国民が熊本の困難に共鳴をした。熊本のために何かをしたいという気持ちをもっていた。それがだんだん風化していった。全国の関心は、やっぱりひと月は持たないですね」
「メディアの影響もあると思います。まずマスメディア自身が震災情報に飽きてきた。そして『読者・視聴者も飽きているに違いない』と思うようになった。でも全国的には、潜在的な関心は今も高いと思っています」
「たとえば私が全国知事会に行くと、知事さんたちの熊本地震への関心は非常に高い。その関心はどこからくるかというと、熊本には地震がないと日本中の人が思っていたのに、きた。今まで地震をひとごとのように思っていた人も、『自分の街にも地震がくるかもしれない』と、自分ごととして思っているのでしょう」
■熊本での検索数、再建の困難さ示す
一方で、熊本県内から検索された数を追ったグラフは、5月まで高い数値を保っている。
「4月の熊本の検索数の多さは、人々が生活関連情報を求めたということだと思います。日常生活に関する情報のニーズって、問題が解決すると、もう検索されなくなる。4~5月の異様な検索数の多さは、日常生活が壊れた時に、それを戻すのがいかに難しいのかを表しています」
「震災には、たくさんのフェーズがあります。まず直後は人命救助。そして食料や水、その後、避難所の確保、避難所の快適性の問題。その次が仮設住宅。いま熊本は仮設住宅のフェーズです。地震発生から6カ月たって、熊本もこれだけ検索数が少なくなったということは、異常な事態が終わり、壊れた日常生活が元に戻りつつあるということだと思います」
■「入浴」「泥棒」、多岐にわたる関心
次に、【熊本地震】という言葉と一緒に検索された言葉、「第2ワード」を、月ごとにみてもらった。
「全国的な傾向は、ずっと同じですね。募金やボランティアといった、支援をしたいという気持ち。ただ、弱くなっていくだけ」
「一方の熊本は、状況によって動くんですよね。たとえば4月は、日々の生活をいかに保つのかという状況でした。一緒に検索された言葉を見ると、【入浴】だったり【泥棒】だったり、ものすごく多岐にわたっているし、検索された言葉の種類も多い。行政は、震災の初動で、この複雑なニーズに応えなければならなかったわけです。初動というのは、本当に難しい」
「ハーバード大学の政治学者のサミュエル・ハンティントン教授が『ギャップ仮説』という理論を出しています。期待値と実態の差が不満になるというもの。だから災害対応では、人々の期待値がまだ小さいうちに、先に実態を充実させていかないといけない。たとえば、最初期の人命救助の時期は、人々は、食べ物や水よりも、まずは『助かってよかった』と思っている。その時にいち早く食べ物や水を届ける。ただ、初動で期待を常に上回ることがいかに難しいかは、この複雑なニーズが現れた4月の分布図からもわかると思います」
■「踏ん張れるぞ」を示す検索語
5月に入ると、【罹災(りさい)証明】や【補助金】、【義援金の配分】、【ボランティアの状況】といった言葉が増えている。
「これらは支援を受ける『受援』の要望ですね。そして6月になると生活再建。生活再建というのは、ふたつあるんです。ひとつは住まい。もうひとつは経済。経済の再建の方で言うと、熊本地震の特徴は、倒産が少ないことです。この6カ月で4件だけです」
「なぜかと言うと、『グループ補助金』という支援策を政府が打ち出したんです。中小企業の支援策で、地域内の複数の事業者で一緒に公費補助を申し込める制度。県が説明会をやったのが6月です。ものすごくたくさんの人が説明会に来ました。6月の検索ワードで、まさに上がっていますね」
「検索が増えたということは、『この制度を使いたい、どうやったら使えるのか』と自ら調べにいったということ。こういう政策は、単に行政から下ろすだけではあまり効果がない。支援を受ける方が発奮して、『これを使えば踏ん張れるぞ』と参加していくことで補助金は生きてきます。6月に【グループ補助金】という言葉が入っているということは、みんなの目が生活再建のうち、経済の再建に向き始めたということだと思います」
■「半壊」は6~8月に多く
もうひとつの生活再建である「住まい」では、【罹災証明】や【半壊】といった公費補助につながる単語が、6~8月に多く検索されている。
「全壊や半壊と判定する『罹災証明』は、ちょっと混乱した時期がありました。半壊と一部損壊では全然違うんですよ。半壊だと義援金も有利ですし、(5月末に県が出した方針で)条件付きで仮設住宅にも入れるようになった。だから、それを調べようと思った人たちが出てきているんですね」
■検索データを活用する道
今回は、検索というビッグデータを使い、熊本地震後の人々のニーズを検証した。今後の行政に、活用する道はあるだろうか。
「可能性はあると思いました。たとえば『風呂がない』とか、人々のニーズがリアルタイムでわかれば、行政も対応ができます。災害直後の混乱した時期に、想定外のことに対応していくのはとても大事なので、そのためにはやはり情報が必要です。たとえば情報分析官とか、人々のニーズを分析し、行政の中枢に伝える役割の人をおいてもいいと思う」
「それから、データから熊本県と全国との関心の違いを知ることができる。これは、永田町・霞が関と、被災地の違いに似ているかもしれません。こうしたデータを見ることで、両者の差を縮める作業を考えられる」
■過去の大地震と合わせたデータ分析を
さらに、蒲島知事は、過去の大地震と合わせたデータ分析を提案する。
「検証は、次にどう生かすかが大事。日本は近年、大きな地震を経験しています。阪神、中越、東日本、熊本。それぞれにビッグデータがある。同じなのはどこか、違いはどこか。それが分かれば次に生かせます。災害後、どのタイミングでどんな期待値が高まるのかを知ることができれば、行政の対応力の向上につながると思います」(原田朱美、平井良和)