大学受験はゲームのようで楽しかったと話す中野信子さん=佐藤正人撮影
脳科学の視点で、人の行動や心理を読み解き、テレビ番組でも活躍する中野信子さん。東京大学理科二類に現役合格した自身の経験も踏まえ、貧しさや、あがり症であることは、受験に不利とも限らないといいます。
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■中学で「学歴つけよう」
中学時代は周囲の人とのコミュニケーションがうまくとれず、将来、就職して社会人としてやっていく自信がありませんでした。その頃から、一般社会に出なくてすむよう大学の研究室に残るため、学歴をつけようと思うようになりました。理系を選んだのは、一般の人の振る舞いを知って合わせるためにも、人間の研究をしたいと考えたからです。
家は貧しく、小さい時は映画館に行っても、妹と私は見られるけれど、母はチケットを買えないほどでした。その分、受験に向けた時期は他に気が散ることもなく、勉強に集中できました。理科や英語を勉強しながら気づくと午前3時という日もありました。集中するとサイレンに気づかないようなこともあって、母は心配していたようです。
勉強法は、ダメなところを見つけてつぶすというもの。予備校は模試や夏季講習だけ受講して、短期で集中して必要な情報を得るようにしていました。やはり商売だけあって、試験結果から出された、どの分野の勉強が足りないかといった自分の学力分析は詳細で役立ちました。学校も優れている先生について行けば、そのレベルまで行ける。化学の先生が作った過去問を集めた演習プリントなどは、それをやるだけで十分な実力がつきました。
受けたのは東大だけ。学費が安く、下宿の必要もない、いいとされる先生が集まっているというコストパフォーマンスで選びましたが、大学に入ってからは本当に幸せでした。自分以上に変わった人もいて、変であることが許される。楽園でした。
大学では、脳の反応を数分・数秒レベルで見るための装置を作ろうと工学部に進みました。でも、それができるファンクショナルMRIという方法が実用化され、「それなら、私はもういいか」と、大学院を受け直しました。医学部に移って神経系、博士課程から認知科学を勉強しました。
■「勉強そのものを楽しんで」
いま多くの受験生には周りに楽しいことがたくさんある。ある程度裕福でもあるとすれば、受験勉強に集中するという意味では不利かもしれません。でも集中しなきゃと思ってもしょうがない。意思と感情が矛盾する場合、人は感情を優先してしまいます。他のことをやりたいと思っていれば、勉強には集中できません。勉強そのものを楽しむのが一番です。
楽しむことは、成果にもつながります。ある実験では、同じ問題を解くのに、片方のグループには早さに応じた金銭的報酬を与え、もう一方にはただ時間を計ることを伝えたところ、後者のグループの方が問題解決が早くなりました。金銭的報酬と自分が達成して喜びを感じるのは脳の同じ領域が担当しています。お金をもらうことによって、達成する喜びが相殺されてしまう。
教育格差が言われますが、同程度の遺伝的素因があるならば、裕福でない方がモチベーションは上がるというのは実感としてもあります。
■緊張も悪くない
試験当日、緊張しやすい人も、それで焦る必要はありません。心拍や血圧が上がると、落ち着かないものの、ひらめきの問題などではパフォーマンスは上がります。そう考えて、冷静になり、自分をうまくコントロールできるといいですね。
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なかの・のぶこ 脳科学者。1975年生まれ。東京大学工学部を卒業し、同大大学院医学系研究科で医学博士号取得。フランス国立研究所で研究員。帰国後、横浜市立大学客員准教授などを経て、2015年から東日本国際大学特任教授。(聞き手・神崎ちひろ)