「袴田事件」の弁護団が21日に明らかにした録音テープの内容には、人権侵害とも言えるやりとりが記録されていた。弁護団は昨年1月に東京高検からこのテープの開示を受け、約1年半をかけて、逮捕当時の「否認」から「自白」に至る約48時間分のやり取りを文字に起こした。
袴田事件弁護団が再審理由追加 トイレ行かせず自白迫る
弁護団が東京高裁に提出した申立書によると、1966年9月4日の夕食後、袴田巌さん(80)は「すいません。小便行きたいですけどね」と切り出した。
「小便は行きゃええがさ。その間にイエスかノーか、話してみなさいって」と取り調べの警部が応じた。もう1人の警部補も「ね。その前に返事してごらん。な」と念を押す。
袴田さんの声が記録されないまま、2人の「どうだ?」「お?」という呼びかけが続き、警部が「言えなきゃ、頭だけ下げなさい」「ん?どうなんだ。袴田。ん?」とたたみかける。そして、「おまえ。なあ。女々(めめ)しいぞ。おまえから言ってやらんと分からんと」という警部補の言葉で終わる。
ここで録音がいったん中断する。
その後、「便器もらってきて。ここでやらせればいいから」という警部の声や、「下行ってね、房の便器」などと警部補が取調室の外の関係者に指示する声が続く。その1分後には小便の音が収録されていたという。
袴田さんが「犯行は間違いない」と「自白」するのはこの2日後。弁護団は記者会見で「身体的、心理的な苦痛を与え、実に忌まわしい加虐行為だ」と批判した。(志村英司)