厚生労働省東京労働局は28日、広告大手の電通と幹部社員1人を、社員に違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで書類送検した。この幹部は、インターネット広告を扱う部署で、昨年末に過労自殺した新入社員、高橋まつりさん(当時24)の直属の上司だった。
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捜査関係者によると、この幹部は、所属部署の部下の社員に労使が結んだ時間外労働時間の上限を超える残業をさせた疑いがある。容疑が固まったとして、立件に踏み切った。上限の範囲内に収まるように労働時間を過少申告させたという。
関係者によると、電通の本社(東京)と関西、中部、京都の3支社で、このほかに少なくとも計約30人の社員の労働時間が過少申告だった疑いがあるという。違法な長時間労働が全社的に常態化している疑いがあるとみて今後も捜査を続け、全容解明を目指す。残業代の不払いについても調べる方針だ。現時点では、労務管理を担当していた役員を含む10人前後の幹部社員の立件を視野に入れている。
電通では昨年末、新入社員の高橋さんが長時間の過重労働により自殺し、今年9月に労災と認定された。厚労省は違法残業が全社的にはびこっているとみて、労災認定から1カ月余りで本支社を強制捜査。今月23日からの3連休中に、石井直社長を含む役員から任意で事情聴取も行うなど、立件に向けた捜査が異例のスピードで進んでいた。(千葉卓朗、河合達郎)
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広告大手の電通と幹部社員が労働基準法違反の疑いで書類送検されたことを受け、昨年末に過労自殺した新入社員、高橋まつりさん(当時24)の母、幸美(ゆきみ)さんがコメントを発表した。全文は次の通り。
今後、まつりのような犠牲者を絶対に出さないように、会社は長時間労働をなくす取り組みを必ず実行してほしい。
また、労働局などの捜査によって実態を十分に把握し、法律に基づく適正な結論を出していただきたい。
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高橋まつりさんの遺族側代理人の川人博弁護士がコメントを発表した。全文は次の通り。
1.関係当局が電通の労働基準法違反等に関する捜査を踏まえて、本日、書類送検を行うとのことなので、これに対する高橋まつり氏の遺族の代理人として、下記のとおり見解を述べます。
2.高橋まつり氏が昨年12月25日死亡したのは、電通の職場における10月以降の長時間労働が最大の原因であり、このことは三田労働基準監督署の労災認定理由にも示されているところである。
3.まつり氏の実労働時間は、昨年10月以降、36協定の上限を大幅に超えており、違法な時間外労働であった。
まつり氏の会社への労働時間の自主申告記録とフラッパーゲートの入退館時刻との間で、大幅な乖離(かいり)があったが、当職らの調査によれば、彼女が在館していた時間帯において、必要な業務に従事していたことは間違いない。
まつり氏は、上記のように乖離している在館時間帯について、上司より社内で飲食をしていた等の書類報告をするよう指示されていたことも、彼女のメール等で明らかになっている。
4.電通は、2000年3月の最高裁判決以降、本社の汐留移転に伴い、フラッパーゲートを通過する際の入退館記録によって長時間労働・深夜労働を削減し、労働者の健康管理にも役立てる旨表明していた。しかしながら実際には、入退館記録が存在するにもかかわらず、長時間労働・深夜労働が継続していたのである。
5.電通は、まつり氏の死亡に関する労災認定が出た後、様々な労働環境の改革案を示し、すでにその一部を実行していると聞いているが、今回の書類送検を踏まえて、幸美氏が12月25日の命日にあたって手記で述べたように、「見せかけではなく、本当の改革、労働環境の改革」を実行するよう期待し、求める次第である。
6.関係当局においては、まつり氏が死亡に至った原因・背景である電通の職場の実態を十分に把握し、今後とも必要な捜査を行ったうえで、関係法規にてらし、適切な判断を行っていただきたいと考える。