セラピストのバージニア・ソーンさん(右から2人目)が指導する「抱擁ワークショップ」の一部を再現する常連たち=ロンドン、渡辺志帆撮影
約860万人が暮らし、その3人に1人が独身といわれる英国ロンドン。ふれあいと、新たな出会いを求めて人々は日夜行き交う。それを手助けするサービスが隆盛だ。
特集:世界の「市場」最前線
12月初旬の日曜、普段はヨガやバレエ教室が催されるロンドン北部の小さなスタジオに、26人の男女が集まった。月1回開かれる「抱擁ワークショップ」だ。
4時間の参加料は男女とも29ポンド(約4200円)。人を抱きしめ、抱きしめられることで得られる心の安らぎを、管理された安全な環境で味わえるのが最大の売りという。
スタジオに入ると、まず温かいお茶とクッキーがふるまわれた。初対面の緊張がほぐれる。20代の若者、白いひげを蓄えた60代とおぼしき人もいた。横を見ると、常連同士はすでにひしと抱き合っている。
車座になり、ワークショップを主宰するバージニア・ソーンさん(36)から基本ルールの説明を受ける。「抱きしめたくない人を抱きしめる必要は、一切ありません」。相性や好みもある。参加が強制ではないことを念押しされた。
触れる相手に許可を得ること、礼を言うこと、服を全部脱がないこと、病気やつらい思い出など相手が明かした個人的な事情を秘密にすること――。いくつかの約束事をした。
そして始まったワークショップ。はじめは音楽に合わせてフォークダンスのように参加者同士が手のひらや足、尻を軽く触れ合わせる「練習」から。次にペアを組んで、相手が許可した範囲で体に触れる。触ってほしいところ、触ってほしくないところを「イエス」「ノー」で意思表示する練習へと続く。ソーンさんは室内をゆっくりと歩きながらささやく。「他者の存在、肉体のすばらしさを感じましょう」
見つめ合い、触れあううち、自然と密着度は高まる。「一番人気」という最後のセッションでは、床に敷き詰めたマットレスの上で、男女の参加者が一緒に抱き合っていた。「ウフフ……」。照明を落とし、眠気を誘う緩やかな音楽が流れる室内に、満足そうな参加者の含み笑いが漏れた。
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なぜ人々は赤の他人との抱擁を求めるのか。
独身の公務員アンドリュー・ブ…