フライドポテトのピアスを作る社員。一つ一つ手作りしている=埼玉県所沢市
食品サンプル作り一筋の中小企業が一念発起して売り出したアクセサリーが、欧米を中心に注目を集めている。牛丼のネックレス、オムそばのカチューシャ……。リアルでいて意表を突くデザインは「モダンアート」と評され、通販も好調だ。
埼玉県所沢市の「畑中」。2代目の畑中紀人社長(55)を含めて社員8人の小さな会社に、ドイツやフランス、スイスなどから毎月のように注文が入る。
人気は、目玉焼きのヘアゴム(1600円)や、ケチャップがかかったフライドポテトのピアス(2600円)。パスタや納豆、お好み焼き、溶けかけのアイスクリームなど、食材や料理をデザインしたアクセサリーや小物のレパートリーは約230点に上る。デザインは、専門学校で油絵を学んだ畑中社長が手がける。「食材の美しさを生かし、変にひねらないこと。それでいて見たことがないものを」とこだわる。
1965年創業。食品サンプルを置かない飲食店が増え、90年代から売り上げは右肩下がりに。多いときで25人いた社員を減らし、「店を畳もうかと、何度も覚悟した」(畑中社長)。
「会社の宣伝になれば」と思いついたのがアクセサリー作りだった。2010年に初めて作ったのは、ベーコン切り身のピアス。精巧で生々しい商品をサイトに載せていった。「こんなのを買う人はいないだろうと思ったが、とにかく誰かの目に付けばと作り続けた」。商品はネットを通じて話題になり、注文が入り始めた。
欧米のネットメディアで取り上げられ、ドイツやイギリスのテレビ局から「現代アートだ」と評された。イタリア・ミラノの美術館の企画展に展示され、米ニューヨークの美術館で取り扱う話も進む。アクセサリーの売り上げが全体の50%を占める月もある。畑中社長は「市場を開拓し、アートとしての新しい可能性を探りたい」と話す。(小林祝子)