三代柴田音吉さん(右)と相談しながら、裁断した生地を仮縫いする稲澤治徳工場長=神戸市中央区元町通4丁目
■港からやってきた
開港まもない神戸の街に、伝説のテーラー(洋服仕立て人)がいた。
特集「神戸開港150年」
写真で振り返る神戸港の150年
柴田音吉。近江商人の家に生まれ、10歳の頃から裁縫を学んだ。15歳で庄屋の婿養子として神戸へ。そこで、外国人居留地にいち早く洋服店を開いた英国人カペルと出会う。
一番弟子として腕を磨いた。丁寧な仕立てと着心地のよさが評判を呼び、初代兵庫県知事の伊藤博文や明治天皇の洋服を仕立てた、という逸話が残る。
1872(明治5)年、明治政府が「礼装は洋服を着用する」と発令し、日本に洋装が広まった。
そのうねりの中心にいた音吉は1883(明治16)年、31歳で独立し、「柴田音吉商店」を創業した。
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神戸ポートタワーを望む元町商店街の一角に、いまも「柴田音吉洋服店」がある。
店内には英国やイタリアから輸入した約500種類の服地がずらり。奥には応接用のソファがふたつ、向かい合わせに並ぶ。
店は予約制。訪れた客は、まずここで柴田音吉と面談する。「三代柴田音吉」を1990年に襲名した5代目の現社長(67)だ。
趣味は? 仕事は? 採寸は後に回し、まずじっくり相手と対話を重ねることから服づくりが始まる。「サイズは一目見れば、だいたいわかる。その人にあった洋服を提案したい」
生地とスタイルが決まれば、工…