湯山玲子さん
■著述家・湯山玲子さん
NHKの視聴率が好調なのはうなずけますね。面白いですもん。例えば、現役の医師たちが、患者の症状から病名を探る推理バラエティー「総合診療医ドクターG」。私も何度か出ましたが、制作に大変な時間と労力をかけているのがわかります。医師の発言に対し、医学的な助言をできるほどディレクターたちが勉強していて驚きました。
やはり、スポンサーの顔色をうかがわずに済むのが大きい。視聴者のニーズに素直に向き合えるのは強い。確かにそんな空気は世間にあるよね、という時代性をすくい取っている。民放だと、数字を取るために広告主にも受けがいい人気アイドルを使うという方向に行きがちです。
でも、NHKはタモリが街をぶらつきながらうんちくを語る「ブラタモリ」という渋いヒット番組を作る方向に走ることができる。昨年の大河ドラマ「真田丸」や障害者の伝え方に一石を投じたEテレの「バリバラ」……。新しい価値を提供するという点で、確実に民放を上回っている。
テレビは長らく、良くも悪くも大衆をみくびってきたんですよ。かつて民放に勤める知人は「バカをやるのがテレビだ」と自嘲気味に言っていました。でも「楽しくなければテレビじゃない」のフジテレビが衰退し、知的好奇心を刺激しようとするNHKの番組が受けているのを見ると、テレビの立ち位置が変わったのだな、とも感じます。
気になるのは、NHKが新しい人材を発掘していないように見えることです。たとえば今話題のMXテレビは、マツコ・デラックスを見つけて世に送り出した。朝の連続テレビ小説「あまちゃん」を大ヒットさせた脚本家の宮藤官九郎も、TBSで見いだされました。キャスティングの自由度が高いNHKが、率先して次代を担う人を育ててもいいんじゃないですか。
有働由美子アナウンサーを生んだNHKはすごいと思うんです。朝の情報番組で、同世代の女性たちが抱えるセックスや体の悩みを堂々と自分の体験をもとに代弁することができる。言葉に力があるので同性からも支持される。
だけど、彼女だけですよね。テレビは全体的に女性観が古いんです。画面に出てくる女性は若いのが普通。40代以降の女性は、お母さんだったり、逆に結婚できない女などの立場を代表する役割ばかり。第2の有働を探せ、と言いたい。
去年の紅白歌合戦はなかなかキツかったですよね。視聴者の方を向いて作るべきなのに、ものすごく内向きな気がした。「紅白は今、進化すべきだ」と局内向けにアピールする企画書が透けて見える感じ。激動の昨今、大いなるマンネリの安定感が必要な場面もあるんじゃないですか。(聞き手・田玉恵美)
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(ゆやま・れいこ) 60年生まれ。著作に「四十路越え!」「男をこじらせる前に」。各局にコメンテーターとして出演する。