意見交換では、開門派の原告団や民進党の大串博志政調会長(左)らが農林水産省の担当者(右)を問いただした=東京・永田町の衆院第1議員会館
国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる和解協議で、農林水産省が地元漁業団体幹部に組合員を説得するための想定問答を示していた問題で、同省と開門を求める原告・弁護団との意見交換会が15日あった。説明を拒む同省の担当者に、批判が集中した。
同省と原告・弁護団は、開門しないかわりに基金を創設するという同省の案などについて、意見を交わしてきた。この日、議員会館であった意見交換会では、弁護団の堀良一事務局長が「省益を優先する極めて非民主的なやり方だ」と、同省が基金への理解を求める内容の想定問答を作成していたことを厳しく非難。事実関係の説明を求めた。
同省の担当者は「存否を明らかにすることで、国の地位を不当に害する恐れがある」と述べ、情報公開法の規定を根拠に説明を拒否。原告の漁業者らからは「一番地位を害されたのは我々だ」「もはや国は信用できない。和解協議を進めたいなら解明が大前提だ」などの批判が相次いだ。担当者が「地元に混乱が起きているのは残念に思う」と述べると「招いたのは農水省だ。他人事みたいに言うな」と怒声も飛んだ。
原告・弁護団は、想定問答の開示や経緯の説明を国に求める求釈明を長崎地裁に申し立てている。地裁が同省に文書の開示を求めた場合の対応について、担当者は「不開示決定という行政処分をしたと申し上げざるを得ない」と回答した。
民進党や共産党から複数の国会議員も出席し、民進の大串博志政調会長は「言語道断な行為。隠蔽(いんぺい)を続ける限り(衆参)農水委員会の正常な審議は望めない」と訴えた。衆院農水委の畠山和也氏(共産)も「民進と連携しながら、不当性を明らかにしたい」と述べた。(菅原普、東郷隆)
■想定問答 主な問いと回答例
国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる和解協議で、農林水産省が作成に関与し、地元漁業団体間で共有されたとみられる想定問答を朝日新聞は入手した。各団体の組合員からの質問を想定し、団体幹部の回答例が記されている。開門派の馬奈木昭雄弁護団長を名指しする記述もある。主な問いと回答の例は次の通り(漢字表記は原文のまま)。
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問)和解勧告に基づき訴訟当事者間で協議されている基金を担うということは、「開門に代わる基金を受け入れる」ことであり認められない。
答)有明海の置かれた状況の下で、開門調査よりも、有明海の漁業振興や再生に向けた取組を基金により進めることが必要と判断したものである。
国と精一杯の交渉をして、「開門調査の旗を降ろしたわけではない」と言える所まで話を持ってきた。そこを評価して欲しい。
問)開門調査の旗を降ろしていないのに開門に代わる基金を担うと言うのは矛盾している。
答)開門調査の是非を棚上げするものであり、開門調査の旗を降ろしたことにはならない。基金を活用することで、その取組次第では、有明海が再生に向かう可能性もあるし、将来、開門調査に限らず、より良い方法が見出されるかもしれないので、それに伴って必要な判断をすれば足るからである。
今回の判断は、現時点の状況下で有明海のために何を最優先とすることが適切かを判断したものであり、矛盾はしない。
問)何故、開門調査の是非を棚上げするのか。
答)今、有明海の再生のためには、基金を勝ち取り、再生対策をより進めることが最優先に取り組むべきものである。
開門調査の要求を棚上げしてでも、当分の間、4県の漁連・漁協、4県、国が協力して基金の取り組みに全力を上げていくべきと判断した。
問)和解協議と関係なく、基金の予算を獲得してくるべき。
答)開門が実質的に困難な中で、そのことに拘(こだわ)って、何も獲れなければ元も子もない。
(馬奈木氏が和解を蹴ったら漁業者は何も獲れない、と問われた場合)国の予算が厳しい中で、水産予算も例外ではない。通常の要望では何年かかっても、基金のような特別な予算は獲れないのだから、自らこの機会を逃してはならない。
問)幹部だけで決めず、総会に諮って対応を決めるべき。
答)我々が要望してきた基金を獲るために、自分(会長・組合長)に一任して欲しい。
問)基金で有明海が再生するのか国から示してもらうべき。
答)基金だけで再生する訳ではない。農水省の有明海再生予算の継続についても前向きな回答を得ている。
これまでの取組に上乗せする形で基金を獲ってくることを評価して欲しい。
問)100億では足りない。増額を要求すべき。
答)自分(会長・組合長)としては、100億というのは充分な規模を獲れたと考えている。
問)馬奈木氏と一緒に増額を勝ち取るべき。
答)優先されるべきは基金を獲ること。馬奈木氏と我々漁業団体の間で、目指しているものが同じかどうかは分からないし、我々の意向を汲(く)んで動いてくれるとは限らない。
問)我々末端の漁業者の意見は聴いてもらっていない。
答)国と精一杯の交渉をして、「開門調査の旗を降ろしたわけではない」と言える所まで話を持ってきた。
有明海漁場環境連絡協議会での議論を通じて、基金に盛り込む内容も交渉しているし、自分(会長・組合長)としては、基金は我々の発意によって上手く使えるものとしたいと考えている。
まずは基金を勝ち取ることであり、任せて欲しい。
問)基金を実施して成果・効果が出なければ開門する旨の確約を国から取るべき。
答)平成22年の確定判決があるが、これまでの経緯をみても開門は現実的に困難な状況。我々漁業団体は、開門調査の旗を降ろしたことにはならないのだから、今こそ漁業者にとっての実を獲るとき。
これまで、中長期開門調査を行わない代わりに、我々は、必要な対策を勝ち取ってきた。ここで一線を踏み越えた要求をした結果、国との協議が決裂し、獲れるものが獲れなくなれば、元も子もない。
問)有明海再生予算は、減額せず、この先も続けると国から確約をとるべき。
答)農水省に対して、平成29年度の有明海再生予算の確保を要望し、前年度と同額の予算が確保される見通しである。当然、今後もこれまでどおり要望していく。
問)基金の配分ルールは、どうするつもりなのか。
答)自分(会長・組合長)が他の団体としっかり話す。任せて欲しい。